第80話 勝ち上がれば勇者

 王都に到着すると、勇者の試験を受付している場所を探し出して、すぐに参加する手続きを済ませた。


「試験は、1週間後の予定です。それまで、しばらくお待ち下さい」

「はい」


 簡単な説明を受けて、試験が行われる予定日まで王都で待機することに。それから予定通り1週間後に試験の参加者は、とある場所に集められた。


 俺は旅の途中で購入した武器と防具を装備して、戦う準備を整えてから集合場所に向かった。


 試験では何をするのか、俺は知らない。この一週間、旅の疲れを癒やして、王都を観光していた。時間があったので、試験の内容ぐらいは調べておけばよかったかな。


 でも、ブルーノが合格するには十分な実力があると言っていたので、おそらく戦闘能力を確認されるのかな。実力を競い合う、模擬戦をするだろうと思い込んでいた。事前の説明にもなかったから、そんな複雑な試験内容ではないと思うが。




 試験の集合場所に指定されていたのは、王都にある、中央に舞台が設置されている会場だった。


 ここで試験を行うのだろうか。俺の周りには今、俺と同じく試験に参加するために100名ほど集まっていた。彼ら全員が、試験の参加者か。そして、試験で対抗するライバルなのかな。


 会場の周りには試験を見学するのか、観客も多く集まってきている。あちこちから視線を感じて、見られているのが分かった。


 一年に一度だけ、勇者の称号を得るための試験が王都で行われるらしい。基本的に試験を行うのは、ここだけだと聞いていた。


 ということは、ここで待機をしている100名の戦士は全国各地から集ってきた、試験を合格するのに自信のある猛者たち、ということなのだろうか。


 一年に一度だけしか受験する機会が無いらしい。今年を逃すと、次はまた一年後。そう考えると、思ったより参加者の数は少ないように感じるが、どうなんだろう。




 参加者の姿は、筋肉隆々のパワーがありそうな男、俺と同じく小柄だが、スピードがありそうな男。その場には、男性だけではなくて女性も何人か居て、勇者の試験に参加するようだった。


 周りを観察して、彼らの実力を測ってみる。だが、特に脅威を感じるような相手は見当たらないかな。実際に戦ってみないと、分からないけれど。




「試験官のハリーです。本日は、よろしくお願いします」


 集合するように言われていた時間になると、規律に厳しそうな見た目をしている、細身の男性が俺たちの目の前に現れた。彼は舞台の上に立って、これから行うという勇者の試験について説明してくれた。


「試験は、ここにいる参加者の皆様で戦ってもらいます。真剣勝負で戦って、実力を競い合ってもらいますッ!」


 その内容とは、トーナメント形式の勝ち抜き戦。勝ち残ることが出来れば、晴れて勇者となれる、らしい。魔物を狩ったり、勇者としての適性を見られるような内容の試験ではないのか。対戦相手と試合をして、勝てばいいだけ。


 勇者としては、強さが大事なのかな。魔物の襲撃から街を守る、というのが勇者の仕事らしいから、まず、実力がなければ務まらないか。


 トーナメントで戦い、能力を競い合う。遠い昔、同じように戦った記憶があった。その時の俺は、優勝することが出来た。実力を認められて、帝国騎士団に入団したのを覚えている。


 あの時と同じようなトーナメントによる勝ち抜き戦を行うようだけれど、あの時は貴族として、今回は一般人として参加となる。


 一般人の俺は、なるべく目をつけられないように、目立たない程度に頑張ろうか。これまでの経験上、目立ってしまうと色々と面倒なことになる可能性が高いから。




「武器と防具は、コチラで用意したものを使用して下さい」


 ハリー試験官が、これから試験を受ける参加者たちに見えるように、武器と防具を目の前に掲げてくれた。試験では、それを装備して戦えということ。


 なるほど、武器は向こうが用意してくれるのか。その方が公平だし、ありがたいのかもしれない。装備の性能差が、勝敗に影響しないようにするためだな。


 用意されたのは一般的なロングソードと、鉄の鎧だ。スタンダードな装備だった。剣は刃引きされていて、切れないように細工されているかな。鉄の鎧は、見るからに重そうで、あれを着て戦うのは少し疲れそう。体が重くて、スピードも落ちるか。


「対戦相手の組み合わせと日程スケジュールはコチラ。各自、後でご確認下さい」


 試験スタッフの人力で、トーナメント表が目の前に運ばれてきた。大きな木の板に刻まれた参加者たちの名前。試験で対戦する相手は、既に決められていた。


 試験官に指示された通り、後で確認を忘れないようにしないと。俺は、どんな相手と戦うことになるのかな。


「基本は、このトーナメントで勝ち残った上位8名ほどを今年の勇者に任命します」


 上位8名ほど、ね。ここに100人ぐらい居るので、7回ほど勝てば優勝できるのかな。そして試験の合格ラインは、5回戦ぐらいまで突破しなければならないのか。


 合格率は約8パーセント。意外と、狭き門のように思える。


「対戦相手を殺してしまった場合、即失格となります。上位8名に勝ち進み、権利を得た者でも、その時点で勇者の資格を取り消します。なので、注意して下さい」


 この試験で死ぬ可能性があるのか。確かに、刃引きされているとはいえ、鉄の剣で戦うようだから。当たりどころが悪ければ、危ないな。こんな注意をするのだから、過去に事故があったのかもしれない。


「それから、戦いで事故が起きて損害を受けられたとしても主催者側は、一切責任を負いません。あらかじめ、ご了承下さい」


 参加者が少ないのは、これが理由なのかも。もしかしたら死ぬかも知れない勝負。ある程度の自信がなければ、受けられそうにない。結構、危険な試験なのかな。


「ここまでの説明を聞いて、参加するのに自信を無くした方はいらっしゃいますか? 自分の実力に自信がなければ、試験を辞退して頂いて構いません」

「……」


 ハリー試験官が、その場にいる参加者の顔を見回しながら問いかける。ここで辞退する人なんて、いるのだろうか。


 もちろん俺は辞退するつもりなど無いから、黙ったまま静かに待った。


「よろしい。それでこそ、勇者を目指す者たちです」


 ここにいる参加者たちは、誰も辞退しなかった。辞退する者が居ないことを喜び、目を細めて満足そうに頷いているハリー試験官。この結果を期待していたらしい。




 というか、こういう危ないルールが有るのなら事前に教えておいてほしかったよ。試験を受けるように指示したブルーノに、頭の中で文句を言う。


 おそらく、説明をしなくても大丈夫だろうと考えていたんだろうな。良く言えば、俺の実力を信じていた、といことか。


 ブルーノは、俺が絶対に合格できるだろうと確信していたのかもしれない。ならば彼が信じてくれた期待に応えるために、トーナメントを勝ち進み、試験を合格できるように頑張ろう。


 試験が始まる直前、俺は気合を入れ直して、合格を目指して勇者の試験に挑んだ。

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