第71話 魔法授業に関する事前の説明会

 マリアという転生者と、思わぬ出会いを果たした。もっと彼女と話したかったが、そろそろコルネリウスと合流する予定の時間なので、行かないと彼を待たせてしまうことになりそうだった。


 彼が今日、俺の泊まる場所を用意してくれているらしい。だから待たせるわけにはいかないか。


「それなら、またお店に来て下さい。私は、いつもここに居ますから」

「分かった。必ず、来るよ」


 再会の約束を交わす。そして、マリアと別れた。俺は再び1人で王都の道を歩き、コルネリウスと会う約束をしている場所に行く。しばらくそこで待っていると、彼がやって来た。


「待たせてしまってすまない、リヒトくん。宿の準備は出来たので、これから案内しますね」

「はい、お願いします」


 彼と無事に合流した。今日から生活する宿も用意してくれたようだ。


 彼に連れられて、王都にある宿へと向かう。そこは、貴族が利用するような高級な宿ではなく、一般市民が利用する普通の宿屋だそうだ。それでも、1人で過ごすには十分すぎるくらいの部屋だと聞いている。


 宿に向かって歩きながら、どうなったのかについての話も聞いた。


 どうやら、俺の魔法学校での授業について、話し合いは上手くいったようだった。予定通り、ロウノトア魔法学校で授業をすることになるらしい。だが、その前に少しやらないといけないことがあるという。


「他の教師たちの前で、生徒たちにどういう授業をするのか説明してほしいんです」

「なるほど。わかりました」


 生徒たちに授業する前に、どんな授業をするつもりなのか他の教師たちに説明しておく事は必要だろう。


 せっかく、辺境の村から王都にまで苦労をして旅して来たので、他の教師に授業の内容を説明するぐらいの労力は惜しまず、やらないといけないかな。


 コルネリウスのお願いを聞いて、授業を行う前にまず俺が他の教師たちに向けて、どんな授業をするつもりなのか説明をする集まりが開かれることになった。




 王都に到着してから2日後、授業の準備を済ませて説明会をしに来た。


 ロウノトア魔法学校の教室で、授業について説明するように言われている。初めて立ち入る場所だ。コルネリウスに案内されて、建物の中を歩く。レンガ造りの立派な建物。


「リヒトくん。こっちだ」


 これから他の教師たちに説明を行うという、教室前に到着した。俺は気合を入れてから、部屋の中に入っていく。


「「「……」」」

「本日は、よろしくお願いします」


 ローブを身にまとった大人たちが数十人、席に座って待ち構えていた。老人や中年男性、女性も居るのが見える。


 そんな大人たちが無言で、じっとコチラを興味津々に見てくる。どうやら、興味を持ってくれているようだ。ちゃんと話は聞いてもらえる様子だった。


 コルネリウスが、俺の素性について簡単に説明しているとは聞いていた。田舎から出てきた奴だと見下すような雰囲気は無いので、ひとまず俺は安心する。


「どうも皆さん、リヒトと申します。それでは、これより魔法の基礎に関する授業についての説明を行っていきます」


 これから行う予定の授業内容は、俺が村の子供たちにも教えているような、魔法に関する基本中の基本について。


 普段から魔法学校で学んでいるような生徒たちに対して、こんなに基礎的な内容で大丈夫なのかな。


 そう思ったが、コルネリウスからアドバイスされて、授業の内容をこれに決めた。村でも教え慣れているような内容だったし、基本を大切にするのは大事だからね。


 これで生徒たちが物足りないと感じるようであれば、これよりも高度な内容に変更すればいいだろう。そんな考えがあって授業する内容を決めたので、今回の説明会で彼らの反応を見てから判断する予定だ。必要であれば、内容を変えることは可能。




 生徒たちに向けた授業の内容について、魔法学校の教師に説明していく。話を聞く皆は、興味津々だった。そして、説明が終わった瞬間に話を聞いていた彼らから、次々と質問が殺到した。


「なぜ、呪文の唱え方を重要視しないんですか? それでは、魔法を発動できないのではないか?」

「魔法の発動を成功させるのに、呪文の発音やイントネーションについて正しくする必要は、無いんですよ」


 それは、事前に来るだろうと予想していた質問内容だった。この世界の人たちは、呪文の発音を気にしすぎている。魔法を発動させるのには、他に大事なことがある。それを知っておくべき。


「なんだって!?」

「では、実際に見てもらいましょう」


 呪文の唱え方について質問した教師は、俺の返答を聞いて驚いている。そんな彼には、実際に見せて理解してもらおう。呪文を唱えることが、そんなに大切ではない、ということを。


「フラマム・チ・エネ・トゥータ」


 これは、普通に火の魔法が発動した。教師たちの注目が、俺の掲げる杖に集まる。本当は杖も必要ないが、彼らに分かりやすいように使っている。これが、この世界で正式とされている魔法の発動の仕方。


「フラマム」


 次に、短い呪文でも普通に魔法が発動するのを見せる。口を開けて驚く教師たち。呪文を短縮しても、同じように魔法が発動しているだけ。驚くようなことではない。


「……、そして、これでも魔法が発動します」

「「「おおぉ!」」」


 今度は何も呪文を唱えずに、火の魔法が発動していた。教室の中が騒がしくなる。教師たちが、驚きの声を上げていた。


「魔法を発動させるのに必要なのは、魔力、イメージ、タイミングの3つです」


 本当は、もっと細かい要素が他にも色々とある。とりあえず大きく分けると、この3つが大事ということ。そんな内容を、彼らに実践しながら説明した。


「なんて美しい、魔法の発動の仕方なんだろうか!」

「素晴らしいッ!」

「その3つの要素が大事とは、どういうことですか!?」

「もっと詳しく教えて下さい!」

「魔力は分かりますが、イメージとタイミングとは?」


 俺の言葉に、身を乗り出して質問をしてくる教師たち。強い関心を示すので、俺も彼らに教えたくなる。


「それでは順番に、1つずつ説明していきますね。まず――」


 それから、教師たちの質問が次々と止まらなかった。一つ一つ俺が答えていくと、予定していた説明会の時間も大幅にオーバーしていた。それでもまだ、質問と説明の応酬が続いていく。俺と教師たち、どちらも止まらない。


 事前の説明会というよりも、彼らに対する本番の授業のような雰囲気に変わった。俺が先生で、ロウノトア魔法学校の教師であるはずの彼らが生徒に。


「それでは、本日の授業はここまでにしましょう」

「そんな」

「もっと聞きたいんだが」

「でも、もうこんな時間!?」

「確かに、終わっておかないと先生に負担が」

「だけど、もっと彼の授業を聞きたいッ!」


 外も暗くなってきてから、多数の人たちに惜しまれながら説明会は終わった。その結果、俺はロウノトア魔法学校で授業をすることが認められたのだった。

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