第67話 王都へ向かう旅

 王都の魔法学校で授業をすることになって、村から旅立つ日となった。20代後半にもなる俺が初めて村から出て行くのを、見送る人たちが集まってくれている。


「気を付けて、行ってらっしゃい」

「母さんも、俺の居ない間は気を付けてね」


 まだまだ大丈夫だとは思うけれど、母親もそれなりの年齢なので心配ではあった。離れている間に、体調を崩してしまったりしないかと。


「畑の管理は任せろ」

「うん。任せたよ、父さん」


 そう言って、いつもの表情で父が俺の背中を軽く叩く。父が居るから大丈夫かな。村にある畑の事も任せてあるので、問題は無いだろう。


 両親2人に見送られる。生まれてから初めて、親元を離れて生活することになる。俺は慣れているけれども、母親は心配そうな表情を浮かべていた。父親は、いつもの無表情だが、実は心配してくれているのを感じる。家族愛の強い人だから。


 俺が旅立っている間、畑の管理については父親と村の人たちにも任せている。今は実験など行っていない普通の畑なので、管理が難しいということもないだろう。


 俺の代わりに畑の様子を見てくれるという村の人たちには、お礼を用意しないと。村から旅立つことを許してくれた両親にも。


「「「先生、行ってらっしゃい!」」」

「行ってきます。すぐに戻ってくるから、用意した宿題をちゃんとするんだよ」

「「「は~い!」」」


 授業で教えている生徒の子供たちに、元気よく見送られる。俺が村に居ない間は、彼らのために用意した宿題をさせておく。俺が見ていない間も、ちゃんとサボらずに勉強してくれると良いんだけど。


「俺の居ない間、生徒たちは先生に任せます」

「はい、任せてください。頑張りますよ!」


 もともと村で魔法を教えていた先生である彼に、子供たちが魔法の勉強する様子を見ておいてもらう。彼が居るから、大丈夫だろう。そのために授業の資料なども彼に託してあったから。それを有効活用してくれるはず。


「リヒトさん、必ず戻ってきて下さい」「絶対、ですよ」「帰ってきてね」

「もちろん。俺は、必ず村には帰ってくるよ。約束する」


 親しくしている女性たちに囲まれて、村に帰ってくるのか心配された。彼女たちの中には、一緒に王都へ旅立とうとする娘も居たけれど、すぐ戻ってくると約束して、村に残ってもらった。


 王都までの移動に数日かかって、向こうで1か月間だけ魔法の授業を行ってから、帰ってくるのに数日。だいたい、2ヶ月ぐらいで村に戻ってくる予定だった。


 2ヶ月間なんて、あっという間だろう。


 だから、こんなに大仰な見送りは止めてくれ。帰ってきた時に、申し訳なくなる。2ヶ月後には、もう帰ってきたのか、と感じることになってしまうだろうから。


「じゃあ、行ってきます」


 こうして村の人達が勢揃いして見送られながら、俺とコルネリウスの2人は村から旅立った。




 村から出ると、まずは近くの街までは歩いて向かう。森と山の中の険しい道を進む必要があった。俺は山歩きに慣れているが、コルネリウスは少し辛そうだった。彼のペースに合わせて、進まなくちゃいけないか。


「いやぁ、リヒトさんは村の人達から凄く慕われていますね!」

「そんな人たちから無理やり引き剥がして、俺を王都に連れて行くんですよね」


 俺が、村人たちから見送られる様子を見ていたコルネリウスが、口にした感想。


 それに対して、俺も口を開く。だが、言ってから、しまったと思った。嫌味っぽくなってしまったな。


「あ。そうですよね。も、申し訳ない……」

「……すみません。俺も、嫌味を言い過ぎました」


 流石に、それは言い過ぎだったと反省して、コルネリウスに謝る。これから一緒に旅するんだから、雰囲気を悪くしたくない。色々と思うことは有るけれど。


「いえ、私がリヒトさんを無理やり村から連れ出してきたのは事実ですから。本当に申し訳ありません」

「最終的に、村を出ると決めたのは俺です。コルネリウスさんが、そんなに謝る必要はありません」


 王都に行くことになるキッカケはコルネリウスだったが、行くと決めたのは俺だ。それに、王都で魔法の授業をするだけではなく、個人的な目的もある。だから、彼がそこまで謝る必要は本当に無い。


 それ以上、気まずい雰囲気を味わいたくないので、話題を変えて楽しく話しながら森の中を歩く。


「こういう森の中だと、土の魔法が有効ですね。例えば――」

「なるほど。地形をうまく利用しながら、魔法を使って――」


 魔法に関する話であれば、いくらでもできる。お互い魔法に関する知識は豊富で、興味も人一倍あるから。共通の話題で盛り上がれるから、楽しい時間を過ごすことが出来た。


 この調子なら、道中での空気が悪くなったりすることはなさそうだな。




 コルネリウスに連れられて、街から街へと移動していき王都に向かう。途中から、馬車を乗り継いで。数日かけての大移動となった。


 これから向かう王都というのが、どんな場所なのかについて彼から教えてもらう。その他にも、伝説の魔女マリアに関する話、王都ロウノトア魔法学校について。その魔法学校で教えている授業の内容や生徒たちの様子。期限付きだけど、1ヶ月間だけ行う予定の魔法授業で、どんな事を教えるべきか考えておきたかった。


 コルネリウスとの初対面は、あまり印象は良くなかった。だがしかし、この王都へ向かう旅の最中に交わした会話で、印象は少しだけ変わった。


 彼は興味を持ったことに夢中になりすぎて、周りが見えなくなることが多々ある。しかし、魔法を学ぼうとする意欲に溢れているし、自身が持っている知識や情報も、隠すことなく色々と教えてくれる。失礼や間違いに気づいたら、しっかりと謝る。


 自分だけではなく、生徒のためにも働く良い先生でもある。わざわざ、僻地にある村まで自ら赴いて、生徒たちに良質な授業を受けさせようと、俺を王都に招いたんだから。 コルネリウスという人物は、人のために、そうやって動ける者であるということは分かった。


 ということを知って、彼に対する印象も良い方向へ変化していた。




 しかし、久しぶりに人の多い街を訪れたなと、俺は思った。


 この世界では、ずっと村に引きこもって、近くの街にすら行かずに過ごしてきた。前世でも、ずっと草原で生きていた。人が多く住む街に行った覚えがない。


 だから、より久しぶりに見たと思えるような光景だった。


「この街はトルアルカと言って、数十年前に有名な土の魔法使いたちが集まって作り上げて、それから栄えた街として有名なんです。数多くの有名な魔法使いが誕生したという、歴史もあります」

「へぇ」


 興味深そうに立ち寄った街の風景を見ている俺に、わざわざ街の解説をしてくれるコルネリウス。そんな彼の話を聞きながら、旅を続ける。


 そして、俺たちは王都に到着した。数日間の旅を、無事に終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る