第45話 部族間抗争
快晴の草原には、お互いの部族が向かい合うような形で並んでいた。数百人はいるだろうラビア族の戦士たちと、数十人だけしかいないナジュラ族の戦士たち。2つの部族が並んで、2本の少し間の離れた平行線のように整列している。
数の差は圧倒的で、向こうに立つ戦士たちは余裕の表情を浮かべていた。偵察した時にも見た、油断があった。こちらの戦士の数を見て、笑っている者もいる。
向かい合う2つの部族たちが武器を手にして、向かい合った中央の場所にお互いの族長が前に出てきて、それぞれの主張を大声で告げる。
「ナジュラ族よ! 要求したモノを持ってきたか?」
「ラビア族よ。我々は、お前たちの要求を拒否する!」
「なんだとッ!?」
要求を出したラビア族に、その要求を拒否したナジュラ族。広い草原に、お互いの族長の声が響いている。その場にいる、全員の耳にも聞こえるような大音量だ。
スラッとしたバランスの取れた体型をしているナジュラ族の族長タミムに対して、ラビア族の族長は筋肉が盛り上がった、屈強な体付きをしていた。見た目だけでは、向こうの族長の方が上に見えるだろう。だが、我々は負けるつもりはなかった。
「ならば、貴様らは全滅する運命を辿ることになるだろう!」
ラビア族の族長は、そう言い捨てる。戦いの前の言葉合戦を終えると、仲間たちのもとへ戻っていく。タミムも我々のもとへと戻ってきて、戦いが始まった。
「頼んだぞ、リヒト」
「はい。任せてくれ、族長」
今回の戦いで、俺がナジュラ族の戦士たちの指揮する。事前に、振り分けておいたグループに分かれて、隊形をとる。左翼に俺のグループ、中央に族長のグループを、そして右翼にシハブのグループが配置につく。
「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」
ラビア族の戦士たちが、大声を上げていた。耳が痛くなるほどの大音声だ。自軍の士気を鼓舞するのと同時に、俺たちにはプレッシャーをかけるのが目的で出している大声なのだろう。
だが、覚悟を決めているナジュラ族の戦士たちには効果が薄い。よかった、あれに威圧されてはいない。
武器を掲げて、ラビア族の戦士が進軍してくる。すごい勢いだな。走りながら弓を構えていた。気の早い弓矢がナジュラ族の戦士めがけて飛んでくる。まだまだ距離が空いているので、当たることはない。しかし、矢が当たっていなことも気にせずに、ラビア族の戦士がどんどん近づいてくる。
もう少し。まだ早いな。シハブ、まだだぞ。少し離れた場所にいる親友に向けて、声は出さずに、強く念じた。奴らに攻撃するタイミングを、じっと待つ。
もう少しで、弓の射程距離。これ以上は、近づかれたら危ない。その時、反対側に居るシハブが魔法を放ったのが見えた。即座に俺も呼吸を合わせて、魔法を放った。2人の魔法を向けたターゲットは、相手の族長だ。一気に勝負を仕掛ける。
ナジュラ族に魔法使いがいるという情報はまだ、どこにも知られていないはずだ。相手の知らない強力な攻撃で仕掛けるから、警戒心も薄い。圧倒的に有利だろう。
ラビア族の族長が、最前線に出てきている。族長が戦場で、あんなに前へ出てくる必要は本来なかった。だが族長は、後ろで隠れていることは許されない。臆病者だと言われてしまうから、出ていかざるを得ない状況。
おそらく、弓矢が届く範囲まで接近してきたら相手の族長も後ろに下がるだろう。その前に、弓矢よりも射程が長い魔法で仕留める。
俺とシハブの放った魔法が、敵の族長がいる位置で交差する。
「当たった!」
「敵の族長が、倒れたぞ!」
「何事だッ!」
「おい、あれは魔法か?」
「聞いてないぞ!」
「や、やばい!」
草原の戦場に、敵と味方の戦士たちの声が響き渡る。
「突撃ぃぃぃぃぃぃ!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」
俺の号令で、ナジュラ族の戦士たち全員が敵陣へ攻め込んでいく。草原中に響く、俺の大声が突撃する合図だった。予定通り、最初に放った魔法で敵の族長を仕留めることが出来たから次は、混乱しているラビア族を力の限り攻撃し続ける。
「止まるな! 攻撃を続けろ、敵は怯んでるぞッ!」
「「「ウォォォォォッッ!!!」」」
混戦になって相手は弓を使えない。混乱もしているので、どうしていいのか相手の戦士たちは戸惑って、動きが鈍っているようだった。このタイミングで攻撃開始した効果は抜群。そして、敵に容赦はしない。攻撃を続けた。
「うわっ!?」
「ガハッ!?」
「た、助かった……?」
敵も徐々に立ち直ってきて、油断した初陣の青年戦士を返り討ちにしようとする。だが、俺が阻止した。危なそうなナジュラ族の者たちは、すぐ後ろに下がらせる。
「慌てるな、落ち着けよ。お前は、先に下がれ。作戦通り、な」
「ッ! ……ハイ」
危なかった青年戦士は、急いで後ろへ下がった。素直に指示に従ってくれるので、とても楽だった。
「撤退、撤退、撤退ッ!」
今度の俺の号令は、短く何度も繰り返して声を出す。これが、全体に後ろへ下がれという合図だった。攻め続けていたナジュラ族の戦士たちが一転、全速力で敵陣から逆方向へと走り出した。
「な、待てッ!」
急な転回に、後を追いかけるラビア族の戦士たち。しかし、ここまでも狙い通り。先に下がらせた青年戦士たちが、弓を構えて待ち構えていた。逃げるナジュラ族を、追いかけてくるラビア族の戦士たちに向けて、矢を放つ。そのタイミングを合わせ、シハブと俺が再び、魔法を放った。
魔法が命中して、次々と倒れていくラビア族の戦士たち。
「もう一度、突撃ぃぃぃぃぃぃ!」
「「「うぉりぃやぁぁぁぁぁ!!」」」
長く出し続ける声は攻める合図。短く、何度も言葉を繰り返す声は、引く合図だ。
この2パターンだけ覚えてもらって、後は俺がタイミングを見極めながら、仲間に合図を出していた。今回の戦いは、それの繰り返し。
「よぉし、全員! 戦いは終わりだ!」
「勝った! 勝ったぞ!」
「うぉぉぉぉ!?」
「やったぁ!!」
「生き残った!」
戦いは終わった。信じられないほどあっさりと、ラビア族に勝利してしまった。
ラビア族に対して、甚大な被害を与えた。ナジュラ族の戦士たちの受けた被害は、軽微である。
つまり今回の戦い、ナジュラ族の大勝利だった。
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