第18話 どう生きるのか

 これから、どう生きていこうかな。俺は1人で、今後の方針について考えていた。


 まずは前回の経験から、簡単に殺されないようにトレーニングを積み重ねて、強くならないといけない。特に、アインラッシュ家が武闘派の貴族だから、いつかは俺も戦争に参加することになりそう。嫌と言っても、拒否することは出来ないだろうな。貴族の家に生まれたからには、避けられない道だろう。


 それから、この世界に居るかもしれない、妹のマリアを探しに行く旅に出ようかと考えた。でも、再会できたとして生まれ変わったなんて言う人間が会いに行っても、信じてもらえるのかどうか。いまさら会いに行ったとしても、迷惑だと思われるかもしれない。


 そもそも、同じ世界に居るのかどうかも不明だった。


 ロウナティア王国や、ロールシトルト領に関する情報が無い。妹マリアの居場所も分からないので、会えるかどうか。おそらく、不可能に近いだろうな。世界中を探し回ってみて、出会えたら奇跡だ。


 居るのかどうかも分からない。会えるかどうかも全く分からない。そんな可能性の低いことに人生を賭けるのか。


 だから俺は、前世に残してきた妹のマリアについては、深く考えないことにした。彼女は賢い。だから、俺なんかが居なくなっても大丈夫だろうと信じることにする。助けられる手段が、今の俺には無かった。


 あの時、生き残ってさえいれば。それが出来なかったのだから、仕方ないだろう。薄情かもしれないけれど。


 だからこそ、今回の俺は力を求める。あんな場面に遭遇しても生き残れるぐらいの強い力を。もう、同じ失敗はしたくない。悲しむ妹を残して死ぬなんて、絶対に。


 俺が生まれたアインラッシュ家は、戦いを専門とする貴族だという。戦える強さが無ければ、生き残れない。これは、今の俺にとっても都合がいい。目標になる。


 アルタルニア帝国にあるアインラッシュ家のリヒトだと強く自覚した。この家で、生きていくことを覚悟する。


 前世の反省を活かして、今回は長生きしたい。家族との仲も良くしていきたいな。前回のような、兄に憎まれ殺されるなんて事態にはしたくない。


 長生きするため、そして生き残るため、まずは戦えるように自分を鍛えないといけないと思った。


 俺の記憶の中には、異世界を15年ほど生きてきて、得た魔法の知識がある。


 転生して、新しい世界に来ても魔法に関する知識は消えずに、俺の頭の中に残っていた。試してみると、この世界でも問題なく魔法を使うことが出来る。この能力は、俺だけのもの。他の人には無いから、大きなアドバンテージになるだろう。


 魔法について、家族に明かすかどうか悩んだ。そして俺が出した結論は、今はまだ隠しておいて、しばらくは様子を見る。どうするか決めるのは、まだ先で考える。 


 家族との関係や生き残れる力が身についたと思った時、タイミングを見極めた上で能力について明かすのかどうかを決めたほうがいいだろう、という結論に達した。


 だから現在、俺が魔法を使えることを知る人は居ない。


 まだ幼い子供だった俺は、アインラッシュ家の戦闘訓練を受けても問題のない体に成長するまでの間は、自由に過ごすことを許されていた。もう少し体が大きくなってから、剣術の訓練を受けることになるらしい。


 成長して剣術の訓練が始まるまでは、魔法について復習しておこうと思う。自由な時間を、魔力のトレーニングに費やす。


 体の奥底から溢れ出る、魔力を感じ取ることは出来ていた。そのパワーを使って、指先から外に放出するような感覚でコントロールすると、ちゃんと魔法が発動するのを確認できる。


「よし、成功」


 やっぱり、魔法は存在しているな。間違いない。


 前回、独学で魔法を勉強して色々と学んできた記憶も残っている。試してみると、ちゃんと魔法は使えることを確認できた。繰り返し、どんどん試してみる。すると、発動するのに異常なほどの魔力を消耗した。そして、魔法を使いすぎると頭が非常に疲れる。体が怠くなる。前は、こんなに疲れなかったと思うけれど。


「はぁ、はぁ……。あー、疲れた……。こんなに、疲れるなんて。なんでだろう」


 数発の魔法を発動させただけで、思わず声に出してしまうほどだ。魔力はそんなに込めていないし、強力な魔法を使ったわけでもない。


 だがしかし、これは新たな発見である。


 まだ体が幼いから、魔力が鍛えられていないだけ。かと思ったけれども、どうやら違うようだ。世界が変わって魔法の仕組みが変わったのかな。この世界では、なぜか魔力の消耗量が激増していた。ちょっとした魔法を使うだけで、大量の魔力が必要になる感覚があった。


 これは、気軽に魔法を使うことは出来ないかも。


 もしくは、場所なのか。ロールシトルト領やロウナティア王国は魔法を発動するのに適した土地だったのかもしれない。そして、アルタルニア帝国は魔力消耗が激しい土地なのか。


 それとも生まれ変わって、体が別物に変わったからとか。


 魔力の消耗が激しくなった理由は、色々な原因が考えられる。事実を明らかにするためには、時間をかけて研究を行う必要がある。


 魔法について、一から見直してみるいい機会でもあった。もともと、独学で魔法の研究を繰り返して、積み重ねて学んできた。世界が変わり、魔法の仕組みが変わったとしても、今までの知識は無駄にはならないはず。


 今のうちに色々と試してみて、魔法の有効そうな使い方を模索してみようか。

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