第17話 アレがない世界

 生まれ変わってから数年が過ぎて、赤ん坊から幼い子供に成長した。自分の足でも歩けるようになり、言葉も話せるようになったので情報収集がしやすくなった。


 そして、俺にとって衝撃的な事実が判明する。そういえば、前から見ていないな。俺の慣れ親しんだ、あれを。気になっていたので、聞いてみた。


「お母様」

「なぁに? どうしたの?」


 その事実を確認するため、俺は母親のクリスティーナに確認する。優しく微笑んだ彼女は、俺の質問に答えてくれた。


「えっと。魔法使いって、いないの?」


 どう聞くべきなのか迷ったが結局、ストレートに尋ねる。この世界に、魔法使いはいないのか、と。


「ふふふ、そうよ。残念だけれど、それは作り話なのよ」


 母親は、俺の質問に微笑みながら答えた。


 魔法使いというのは、物語の中にだけ登場する存在。だから現実に居ないんだと、優しげな口調で説明してくれる母のクリスティーナ。その口調からは、事実を隠している様子はない。


「それじゃあ、魔法は誰も絶対に使えないの?」

「え? うーん、そうね。もしかしたら、ずっと昔にはあったのかもしれないわね。でも今は、誰も使うことは出来ないわよ。使えるのは、物語の中だけね」

「そっか!」


 もう一度聞いてみたが、母は困ったような表情を浮かべて答える。魔法なんて存在しないのだと。やはり、嘘を言っている様子はない。


 もしかすると、母親が知らないだけで秘匿されて伝承されているのかもしれない。魔力は存在しているようだし、俺は魔法が普通に使えていたから。


 前世から引き継いだ記憶を頼りに、俺は幼児期の暇な時間には瞑想を繰り返して、魔力を鍛えるトレーニングを積み重ねていた。前と同じように、生まれ変わった今の体の中にもちゃんと魔力を感じることが出来ていた。


 母は知らないけれど、魔力は確実に存在していた。


 誰にも見られないように隠れて、魔力を使う実験もしてみた。ちゃんと発動した。魔法使いは存在しないのに、魔法は普通に使えている。不思議だった。


 魔法が使えるから、俺は同じ世界に生まれ変わったんだと思いこんでいた。しかし今、思い返してみると誰も日常生活で魔法を使っている場面を一度も見なかった。


 アインラッシュ家が武闘派の貴族だから、屋敷内では魔法を使わないのかな、とか予想していたけれど。そもそも、魔法や魔力の存在を知らなかったのか。だから誰も使っていなかった。使うことが出来なかった。


 本当に、魔法使いが存在していないというのか。そんな事、あり得るのかな。この力に、誰も気付いていないのか。


 もしくは、彼女の言うように、ずっと昔には存在していたけれど、廃れてしまったのかもしれない。


 とにかく、帝国には魔法使いが存在していないらしい、ということが判明した。


 もしかして俺は、全く別の異世界に転生してきたのかな。いやでも、そうだと決めつけるのは、まだ早いだろうか。やはり、帝国外のことについて詳しく調べる必要がありそうだな。帝国以外には、魔法使いが存在しているのかどうか。存在していたら母親も知っていそうだけど。どうなんだろう。


 そもそも、なぜ俺は転生を繰り返すのだろうか。同じリヒトと名付けられたのは、偶然なのか。


 前回と同じように、何故か異国の言葉でも理解できている。それも不思議だった。今回は、生まれた瞬間に言葉はもちろん、文字も読めていた。その理由は解明できず謎のまま。考えて、答えが分かる問題なのかも分からない。神のみぞ知る。人間には知る由もない事なのだろう。これは、深く考えても無駄そうだ。


 転生したから、そういう能力を授かったと納得するしかないのかな。


 俺は、新たな世界に転生した。死んで生まれ変わって、新たな肉体を得て、新たな人生を送らねばならなくなった。アインラッシュ家の人間として。


 その事を、成長していく体と共に受け入れていくしかないようだ。また最初から、俺の人生はスタートしたという事だ。

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