花散る下の約束

平中なごん

一 十五夜の約束

「――来年の同じ春の十五夜に、この桜の下で再び会おう。その時に約束を果たす」


 月影に蒼白く浮かび上がる一本の満開の桜の木の下、春の夜風に長く結った髪をなびかせながら、 田門芽郎左たもんめろうざはその可愛らしげな顔に微笑みを湛えて言った。


「ああ。約束だ。その時を楽しみにしているぞ。その剣に誓って、ゆめゆめ違えることのなきようにな」


 芽郎左のその言葉に、ひらひらと紙吹雪のように舞いながら、やはり蒼い月光を映す小さな花弁の降り注ぐ中、芹野貞蔵せりのていぞうは袖に手を差し入れて腕組みをしたまま、無骨な顔の口元を不敵に歪めて答えた。


 そして、それ以上は何も口にすることなく、くるりとその場で踵を返すと静かに何処かへ遠ざかって行ってしまう……。


 それが、親友との別れの際、芽郎左が貞蔵と交わした最後の言葉だった――。

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