元カノに転生したらキモい俺が言い寄ってきて恥ずか死すぎる

「ごめん本気で無理。婚約破棄させてください……」


 愛する婚約者から急に生理的嫌悪を覚えられた俺は、汚いものを見る目で唐突に婚約破棄を告げられた。


 理不尽だった。

 本気で愛していたのに。


 気持ちの整理がつかないまま婚約はキャンセルとなり、俺は彼女を呪うこともできず、強い強い未練を抱えたまま命を絶った。


 来世では一緒になれますように――


***


「って、こういう意味じゃないからな⁉︎」


 転生した『わたし』は思わず叫んでいました。

 彼女の華奢な身体で自分を指差し、彼女の可愛らしい声を響かせて。


 わたしは元カノ――わたしを捨てた婚約者に転生していたのです。


 望んだことではありません。

 そりゃあ、来世で『一緒』とは願ったけど、ここまで同一化したかったのではないわけで……。


 まあ、これはこれで嬉しくないこともありませんが。


「あっ」


 わたしは気づきました。

 スマホのロック画面の日付が、巻き戻っていることに。


 これは、わたしが命を絶つより以前の、過去の日付です。


 というか、この日って――


 インターホンが鳴り、玄関を開けると男が当たり前のような顔をして入ってきました。


「や、来たよ」


 前世のわたしです。

 彼は整髪料で固めた頭をゴキブリのように黒光りさせ、わたしに近寄ってくると、


「恋しかった」

「うっ……」


 唇をくっつけようとします。

 わたしはぎりぎりのところで顔を上げ、あごで受け止めました。


 ぬるりとした感触。

 あごによだれが付着しました。

 うわ……。


「あれ? どうしたの?」

「……待って、ちょっとだけ待って」


 わたしはすこし距離をとって、彼を見ます。


 自己評価よりだいぶ顔が悪いと思いました。

 鏡で見たり写真で見たりする顔は無意識に角度に気を遣っていて、これが本当に他人から見た顔ということでしょう。

 よくこの顔で、わたしと付き合えたものです。


 よくよく見ると、鼻毛がすこし見えているし……。

 つらすぎる。


「今日はご機嫌斜めさんなのかな?」


 何でしょう、この気取った口調は。

 格好良いとでも思っているのでしょうか。


 というか、視線――


 唇。

 胸。

 股。

 ……そんなところにしか興味ないわけ?


 自分の視線がバレバレだということに気づいていないのか、彼はしつこくわたしの身体を見ています。


「……キモい」

「え?」


 思わず口から漏れていました。

 彼は何を言われたのか理解できないといった顔。


「生理的に無理ってこういうことを言うんだね」

「え、え? どうしたんだよ」


 わたしの腕を掴もうとする彼の手を振り払って、わたしは告げていました。


「ごめん本気で無理。婚約破棄させてください……」

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