陰キャだから婚約破棄?
「は? 婚約やめるってどういうこと?」
うちに来て早々、彼はあたしに婚約の取りやめを告げました。
婚約破棄ということです。
その理由を問い詰めると――
「お前、自分のことどう思ってる?」
「え、あたし? 顔はまあ……中の上くらいだと思うけど」
「顔のことじゃない。性格」
「う……」
あたしは返答に詰まりました。
自分の性格。
あまり考えたことがありません。
友だちは多くはないけど、とくに敵を作るでもなく、普通に生きてきたつもりです。
そう、普通。
あたしはそう答えることにしました。
「普通なんじゃない?」
「自己評価はそうなのか。でもお前、社内で陰キャって言われてるぞ」
陰キャ?
陰気キャラ……のことだと思いますが。
あたしと彼は社内恋愛ですが、みんな普通に接してくれていて、べつに嫉妬とかそういうのは感じていませんでした。
彼はイケメンだけど、他にもっとイケメンはいくらでもいますし。
「陰キャとか陽キャとか考えたことないよ」
「そんなことありえるか?」
「あるって。そもそも、そうやって人を評価してもてあそぶ感じが、陽キャたちの戯れって雰囲気あると思わない?」
陰キャだの陽キャだの分類してどうこう言っている時点で、人との関わりに興味津々な印象があたしにはあります。
人と比べたりしなければ、そんな言葉は必要ないと思うのです。
でも、彼は――
「そうやって心の奥を覗いたつもりになって悦に入ってるのが、陰キャって言われる原因だろうが」
「うーん……」
そんなことはないと思うのですけど。
そんなわけない、と否定するのも難しいようにあたしは思いました。
ただ、ひとつだけ確認する必要があります。
「あなたはどっちなわけ?」
「俺は陽キャになりたい」
「あ、そう……」
答えになってはいませんでしたが、何よりも正直な返答のようには感じました。
陽キャになりたいなら、陰キャと結婚するわけにはいかないんでしょうね。
ひどい話ですけど、絶対におかしいとあたしが指摘できるたぐいのものではなさそうです。
仕方がないのかもしれません。
なので、あたしは受け入れました。
「いいよ。じゃあ婚約やめましょ?」
「あ……」
彼がなんだか悩ましい表情をしました。
「どうしたの?」
「いや、なんか……。今のサバサバした感じ、陽キャぽいなと思って。もしかしてお前、ほんとは陽キャなんじゃないか?」
「知らないよ」
本当にどうでもいいと感じました。
「俺が惚れたのも、そういう陽キャ的なところだったんだ。みんなにもちゃんと説明すれば――」
「もう帰ってくださいね」
あたしはあたしです。
分類する言葉なんて、何もなくて結構です。
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