婚約破棄ってキープだったの?

「……話は、わかりました」


 わたしは、しぶしぶですが了承しました。

 これ以上言っても仕方のないことだと観念したからです。


 何をって――

 婚約破棄ですよ。


「わかってくれて助かる。じゃあ僕はこれで……」

「待ってください!」


 何が「助かる」ですか。

 わかったのは、婚約破棄されることについてだけです。


「あなたがどういうつもりなのか、そこはきちんと話していただきます」

「どういうって? そのままだけど」

「……あなたの話では、わたしより美人と出会ったということでしたが」

「うん、見る?」


 スマホのカメラロールから、そのかたの写真を見せられました。

 ……たしかに、美人かもしれません。


 でも、そんな話じゃないでしょう。


「わたしより美人だからって、それが何だと言うのですか?」

「え、わかってくれたと思ったのに。きみは今までナンバーワンの美人だったんだけど、今はナンバーツーなんだよ」

「ナンバーツー……」


 わたしも美人ということでしょうけど。

 褒めてない……。


 というか、その感覚って。


「わたしをキープしてたけど、もっと美人がいたからそっちに乗り換えるってこと?」

「キープ! それだっ!」


 わたしを指さしてきます。

 うっとうしい。


「僕はその単語を思いつかなかったんだ。きみは頭もいいね。美人で頭もいい……うーん、でもやっぱりナンバーツーは変わらないかな。キープ終了!」

「ちょっ……」


 人を馬鹿にするにもほどがあります。

 わたしは怒ろうと思いました。

 怒って当然の場面でしょう。


 でも――


 このイケメンと付き合って、愛されて、それで浮かれていた自分を思い出しました。

 囁かれるままに婚約を信じて。


 わたしは馬鹿だったのかもしれません。


「もう行っていいかな?」

「……その写真の子より美人が現れたら、あなたはどうするのですか?」

「キープ終了するだけだよ?」


 わたしはすこし笑ったように思います。


 わたしは馬鹿だったけど、婚約破棄くらいで済んでよかったのかもと思ったのです。


 写真のかたはもっとあと、もしかしたら結婚して子どもができてからキープ終了されることになるのかもしれません。


 そう思うと、寝取られた仕返しは、もうこのイケメンが乗り換えた時点で完了しているように思えてきました。


「あなたってなんでそんなに美人が好きなんですか?」

「? 当たり前でしょ。きれいな絵があったらずっと見ていたくなる」

「では婚約とは?」

「額縁に入れて飾ることだよ。美人を飾る額縁はひとりひとつって決められてるから、僕はちゃんと入れ替えるんだ」


 なるほど……。


 わたしは額縁から出られた喜びで、心がすーっと軽くなるのを感じました。

 写真のかたは、お生憎様ですね。


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