姉の婚約破棄をじっとり復讐する

 あたしはレストランで男性とディナーを楽しんでいます。

 彼は元ラガーマンで外資系に勤める、ガチムチの長身イケメン。

 わけあって独身です。


「あなたと仲よくなれてほんとに嬉しいわ」

「ぼくもだよ。なかなか都合がつかなかったのに待っていてくれて、とても光栄に思う。貴女のようなすてきな女性は、男が放っておかないだろうに」

「ふふ、ありがとう」


 あたしはにっこりと優雅に微笑みました。

 これも勉強の成果です。


 あたしは目的があって、この男性に近づいています。

 エステやジムで自分を磨き、マナー講座で常識を身につけ、ダンススクールで背筋を伸ばし――

 やれることはすべてやって、ここまで来ました。


 すべては姉の復讐のため。


 姉は、一年前、婚約破棄されました。

 以来すっかり痩せ細ってふさぎ込んでしまい、ほとんどあたしたちとも口を聞いてくれません。

 あんなに明るくて優しかった姉が……。


 母とあたしでどうにか聞きだしたところによると、姉は婚約者とその母親から、奴隷契約のような婚前契約を突きつけられたらしいのです。

 住む場所を婚約者の実家近くに指定するだけでなく、交流の頻度、夜の営みの報告まで義務づけられた、がんじがらめの契約書。

 姉は婚約者にぞっこんだったのでそうとう悩んだようですが、やはりどうしても全部は受け入れられず、婚約者に母親の説得をお願いしました。

 その結果が、突然の婚約破棄です。

 奴隷に交渉の余地などなかったということです。


 そんな家に嫁がなくて済んだのは幸いでしたが、あたしは衰弱する姉を見て、復讐を決意しました。


 そして今、このレストランに来ています。

 あたしは男性を全力でもてなし、懐柔することに成功していました。


「ああ、今晩は本当に楽しかった。貴女のことを本気で気に入ってしまった。どうしたらこの気持ちを貴女に返せるだろう?」

「あたしもあなたのお話に楽しませてもらったんだから、おあいこ。もう結婚でもしちゃう?」

「はは、知ってるくせに――」


「ぼくはゲイだよ。女の子は恋愛対象じゃない」


 彼はあたしにウインクして見せました。

 あたしも投げキッスを返し、


「うん、知ってるわ。だからね、あたしの知り合いを紹介してあげようと思って。この人なんてどう?」

「おお! 最高に好みだよ」


 あたしが見せた写真に、彼は吸いつかんばかりに見入りました。

 姉の、元・婚約者の写真です。


「この人ね、バイなの。高校のときにラグビー部の先輩と『いい仲』だったんですって。卒業してからは女の子と付き合ったりしてたんだけど、去年婚約までいった女性と失敗しちゃって、また男が恋しくなってるみたい」


 全部、本当の話でした。

 あたしはやれることはすべてやったのです。

 元・婚約者の過去や、男の好みまできっちり調べてあります。


「この人、あなたみたいなラガーマンに目がないから、いっぱい愛してあげてくれない? 最近よく行くバーを知ってるのよ、あたし」


 写真に見入っている男性を見て、あたしは復讐の成功を確信しました。

 これであの男は、ゲイとして生きていくことになるでしょう。


 彼にとっては本来の自分に戻れて幸せかもしれません。


 でも――

 あの過干渉の母親は、どうでしょうね?


「あ、そうそう、夜の営みを報告してほしがってる人がいるんだけど」

「いいよ。ぼく見られるの好きだから、彼と繋がれたら記念に動画を送るよ」


 最高の復讐になりそうです。

 お姉ちゃん、あたしやったよ。


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