先に姉妹編というべき『ゴースト・アンド・リリィ』のレビューを書きました。こちらの作品も概ね感想は変わらないので、こちらでは両作品に共通する、ひとつの世界を構築することへの熱情の強さにフォーカスしてレビューしたいと思います。
ファンタジー/SFの醍醐味のひとつが、ひとつの世界をまるごと構築することの楽しみです。ともすれば設定倒れになりかねない危うさもありますが、それがどうした、といわんばかりに世界について語り倒す作品もあり、個人的にそういう作品を読むことに大きな喜びがあります。
ひとつの世界を構築することは、当然ですが非常な労力を必要とし、それでいて物語に資する部分は限られており、有り体にいえば徒労に終わる危険をはらんでいます。
──しかし、楽しい。無類に楽しいのです、これは。私も、手遊びながら小説を書く身であり、幼い頃から想像の世界に遊ぶことに親しんできた身であるゆえ、この楽しみはわかります。想像力/創造力の翼を目一杯に広げ、これまで貯えてきた知識を総動員し、ひとつの世界を満足行くまで作り込み、その中で遊ぶということ……これに勝る喜びはなかなかないものです。
どちらの作品も、作者が楽しんで世界を作り上げてきたことが一読してよくわかります。冒頭の、独自の進化を遂げた魔法生物たちの描写からして「ただものではない」という雰囲気がありました。そして、読み進めるうち、まこと事細かに世界が作り込まれていることに大きな衝撃を受け、そして喜びを感じました。典型的な指輪物語フォロワーではない、さながら異星の知的種族を思わせる隣人種の描写。エスペラント語をベースとしたリンガ・フランカをはじめとする文化面の緻密さ。物語の根幹に関わる、魔法と神々にまつわる設定、その背後にある、まことにSF的というべきロジカルでエクストラポレーション的な思考……そこにはまさに「異世界まるごと作る」という強い熱情が感じられ、それこそが作品世界に非常な厚みと説得力を与えています。多方面に及ぶリサーチも含め、作者がどれほどの熱意と愛情を込めてこの世界を作り上げたか、まったく頭が下がる思いです。
そして、だからこそ、そこに生きる人々が生き生きと立ち上がってくるのですね。彼らが日々を精一杯に生きる世界が、生気に満ちて輝いているからこそ、住人たちもまた生の喜びに満ちて躍動する。まさにエラン・ヴィタール……これこそが世界を作り上げる楽しみ、喜びなのだ、とつくづく感じ入ったことでした。
長々と書きましたが、これほど面白く、楽しい作品にお目にかかることはまれなことです。まこと得難い幸運というべきでしょう。おすすめです。