第十一話 研究ブロック

前回のあらすじ


いよいよ遺跡に侵入した四人。

早速手荒い歓迎が。






 四つ足の警備機械は、それから何度となく襲い掛かってきた。

 実に馬鹿正直にむかう先からやってくるのだが、つまりそれは一行が着実に制御室へと向かっているということだった。


 警備機械はもう警告を発することはなかった。どのような仕組みか、四人を識別して敵だと認定したらしく、容赦無用で攻撃を仕掛けてくる。

 この攻撃は、今までに見たことがないものだった。


 胴体に取り付けられた筒状の部分から何かが飛ばされてくるのだが、それが目に見えないのである。ただ、発射音がして、咄嗟に未来が盾で受けたので、それが空気の塊を射出しているということが分かった。


「非殺傷性の……ってわけじゃないよな」

「盾にあたった時、凄い衝撃があった。紙月は当たるとまずいかも」

「了解」


 未来を先頭に歩いていくと、警備機械は次々とやってきては容赦なくこの空気弾をお見舞いしてくる。

 単純に圧縮空気を風精に乗せて飛ばしてくるだけでなく、当たった瞬間に圧縮空気が前方に向けて爆発するようになっているらしく、かなりの破壊力がある。


 聖硬石の壁はともかく、流れ弾の命中した金属製の扉が吹き飛ばされた辺り、生半可な鎧では、しっかり着込んでいたところでいい的になるだけだろうことが予想できた。


 何しろ、数体まとめて攻撃してきたのを受け止めると、さしもの未来もちょっと足を止めて構えなければ危ないのである。これは、中身が子供で体重が軽いこともあっただろうが。


 やがて進んでいくうちに、明らかに強固な扉が現れた。

 厳重さと言い、横に取りつけられた機械のごつさと言い、いかにも重要ですと言った扉である。


「これは?」

「恐らく居住空間から研究区画への出入口でしょう」

「さて、さっきと同じで壊せるかな」

「待ってください」


 キャシィ博士が紙月を制し、何かのカードのようなものを扉横の機械にあてた。

 すると、あれほどまでにかたくなに見えた扉が、音もなくするすると横に開いていくではないか。


「……なんです、それ?」

「えーと、古代遺跡で発見された認証札です。どうも高位のものらしくて、大抵の扉は開けられます」

「セキリュティパス、か。それがあれば警備機械も追い返せたんじゃないですか?」

「私たちだけならともかく、持っていないお二人は結局攻撃されてましたよ」

「それもそうか」


 扉をくぐると、そこは通路をそのまま切り取ったような小部屋だった。

 四人が詰め込むようにその小部屋に入ると、背後で扉が閉じた。


「うぇ、閉じ込められた?」

「口閉じといた方がいいですよ」

「え?」


 途端、軽い警告音とともに、何か霧のようなものが部屋の天井から吹きかけられる。

 そして全身がその霧でおおわれると、今度はどこからともなく風が吹き出し、全員の体を吹き流していく。


「なっ、なんっ、なんだっ!?」

「滅菌消毒しているんですよ。あー、と、書いてあります」


 古代語らしい説明書きを指さしてそう説明してくれるが、そう考えるとまるで滅菌室である。いよいよもってSFだ。

 滅菌消毒とやらが済むと、また軽い警告音とともに、反対側の扉が開いた。


 一行は小部屋を抜けて、研究区画とやらにたどりついた。

 造り自体はそう変わるものではなく、ただ扉の横の機械が少しごつくなり、扉自体も頑丈そうではある。


「何の研究をしていたのかも気になりますが、とりあえず先に制御室で警報を止めてしまいましょう」

「場所はわかるんですか?」

「この造りであれば、入口の方にあるはずですよ」


 両博士の導くままに、ブロックの反対側まで部屋を素通りしていくと、また例の滅菌室があった。

 博士のセキュリティパスでこれを通り抜け、再び滅菌消毒を受けてから外に出ると、今度は造りがはっきりと変わった。


 広く長い通路がまっすぐに続いており、その先に扉が一つあった。横には今までのパネルのようなものではなく、上向きの矢印のついたボタンがついている。

 あれはもしかしてエレベーターじゃなかろうかと想像する紙月の横で、博士がこっちですよと、出てきた扉のすぐ脇に進んだ。

 そこには、こちらを窺えるように窓の取り付けられた、小さな部屋が存在した。

 受付のようでもある。


 博士のセキリュティパスで中に侵入すると、そこは不思議な空間だった。

 薄暗い室内の壁の一面に、ディスプレイのように無数の映像が浮かび上がっているのである。

 そこに映されているのは、いままで通ってきた施設内の映像であり、また、まだ見たことのないエリアの映像であるようだった。


「監視カメラみたいなもんか……」


 両博士がディスプレイを見上げるように設置された機械にセキリュティパスを通し、キーボードのようにも見える装置を操作すると、やがてあれだけうるさかった警報が鳴りやんだ。


「よく操作方法がわかりますね」

「研究者ですから」


 胸を張って言われると、そう言うものだという気もしてくる。


「うーん。耳が慣れちまったせいか、急に音が消えると、なんだか耳鳴りでもするような感じだ」

「まあ、静かなのは良いことですよ」

「これでここの遺跡は我々が掌握しました。後は心置きなく調査ができるというものです」

「そのあたりは俺達はどうにもできないから、調査班を呼んでこないとな」

「そうですね、ざっと下見だけして、」


 そのようにすっかり気も抜けて雑談しながら、扉を出たところであった。


「全く! また誤報か、苛つかせてくれる! 一体この私をなんだと……うん?」


 それは、いつぞやの海賊船事件の、細鎧の魔術師であった。






用語解説


・空気弾

 仕組み的には武装商船に積んでいた最新鋭の魔導砲と同じ理屈である。

 ただしそれよりもはるかに小型で精密であり、技術力の差はうかがえる。

 対人用であり、重装甲相手は想定していないようだ。


・認証札

 身元確認呪符がIDカードなら、こちらはそれに付け加えてセキリュティパスの機能があるようだ。

 どちらにせよ、かなり高位のアイテムであるのは確かだ。


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