第九話 四神合体超合金エレメンツ! ここに推参!

前回のあらすじ


相変わらずマッドな博士たち。

そして急に振られて驚く未来。






 どこからともなく勇壮なBGMが流れては抜けていく。


「セイリュウドラゴン!」


 青く輝くドラゴンが飛び立ち、猛風とともに雄たけびを上げる!


「スザクバード!」


 真っ赤に輝く怪鳥が、翼を広げて高らかに歌う!


「ビャッコタンク!」


 地をかける白虎が大地にそびえ、雄々しく吠える!


「ゲンブシールド!」


 激流とともに現れた大亀が、鮮やかな甲羅を見せつける!


 そして四神はそれぞれに分解し、組み合わさり、一つの巨神へと姿を変える!


「四神合体超合金エレメンツ! ここに推参!」


 どこからともなく響き渡る轟音とともに、そこに立っていたのはまるで原色カラーのスーパーロボットであった。

 ご安心ください。お読みになられているのは異界転生譚シールド・アンド・マジックで間違いございません。


 切れのいい合体バンク・シーンを披露した挙句に完成するこの鎧は、その名も《超合金エレメンツ》。

 一応はゲーム内装備であり、装備するたびにこの変身バンクを流す(※スキップ可)という、《エンズビル・オンライン》でも屈指のイロモノ装備である。


 見た目が完全にスーパーロボットであることもあり、ゲーム内の世界観から完全に浮いていることもあり、総合的な人気はぼちぼちといったところであるが、これでも金属性の属性鎧としてはハイエンドにある装備である。


「いやぁ、相変わらずとんでもないというか、ここまで再現するか……」

「こ、これはいったい……」


 さしものキャシィとユベル両博士も呆れていることだろうと、


「な、なんて格好いいんですか!?」

「変身合体! ここまで完璧な変身合体!」


 駄目だった。

 常識人はここにはいないようだった。


 変身バンク中こそのりのりで装備していた未来もさすがに注目を浴びると恥ずかしくなってきたのか、もじもじとしているし、そろそろ解放してやらねばならない。


「ね、ねえ、紙月。結局何するのさ、これで」

「シールドマシンの真似事をしてもらおうと思ってな」

「シールドマシン?」


 紙月はメモ用紙にざっくりとした説明書きと図をかき上げて、実際に《金刃レザー・エッジ》で見本を作りながら説明した。


「俺の《金刃レザー・エッジ》がこんな具合に結構自由に改変できるみたいに、お前もがんばりゃ魔法の盾の形を変えられるはずなんだよ」

「あー、そう言えば、結構状況に応じて形変えてる気がする」

「だろ? それで、金属性の魔法盾をこんな形にして、岩肌にくっつけて回転させて、こうがりがりがりっと」

「あー……イメージはわかった。ドリルの幅広な感じだね」

「そうそう、試してみてくれ」

「うん」


 簡単な説明の後、未来は断崖のような岩肌に向かって、呪文を唱えた。


「《ラウンドシールド・オブ・ゴブニュ》!」


 構えた《ゲンブシールド》に纏わりつくように、液体のような金属が広がっていく。本来ならばそのまま巨大な盾の形を形成するだけだが、ここで意識して形を変えていく。

 全体の形状は、円盤のような形。表面にはおろし金のような細かい刃を大量につけ、ところどころに崩した岩や土の抜ける穴を作っておく。


「むぅ、ん……こんな感じ、かな」

「よし、じゃあ回してみてくれ!」

「回転、回転……!」


 本来固定すべきである盾を、回転させるというのはかなりの重労働だった。イメージに強く訴えかける必要があった。

 ドリルだ。敵を穿つドリルだ。何物をも貫くドリルをイメージするんだ。


 やがてその意志に応えるように、ゆっくりと、しかし確実に盾は回転し始める。

 そして徐々にその回転速度は増し始め、接触した岩肌をはっきりとがりがりと音を立てて崩し始める。


「うわっ、ものすごい音ですねえ……!」

「もっと激しくなってくれんと、なかなか進まん」

「まだ!?」


 未来は回転速度を上げていく。

 それに伴い、破壊される岩や土砂の量は増えていき、足元へと落ちていく。

 それを工員たちがせっせとシャベルと猫車を使ってどかしていく。

 そうこうしているうちに、あれほどてこずっていた岩肌には、穴と呼べるだけの立派な穴が通り始めていた。


「さて、穴が開いても、またふさがっちまったら困るな」


 未来が掘り抜いていく穴の壁に、掘りぬかれた土砂の一部を利用した《土槍アース・ランス》、《土鎖アース・バインド》で補強を加えていく。

 圧縮された土砂で固定した壁面に、更に《金刃レザー・エッジ》を調整した金属板で補強していく。


 この調子で削っていき、一日で十メートルほどが掘れた。

 《SPスキルポイント》が、そして体力が回復するだけの十分な休養を取りながら、この速度である。

 人力であれば一日一メートルか二メートル掘れればいい方だろうと考えると、相当な速度である。


「立って歩けるような高さで、しかも補強までされてこの速度とは、いやはやとんでもないですねえ」


 とは途中から呆れてものも言えなくなったユベル博士に代わってキャシィ博士のコメントである。


「大学ではこういう機械造れないんですか?」

「目の前で見せられましたからね、造れると思いますよ。ただ、こんな山奥まで運ぶのは無理だろうって重くて巨大なものになるでしょうけれど」


 しれっと現代のシールドマシンを再現できるというあたりこの博士も大概である。


 この調子で三日ほど掘っていくと、ある時急に進行が止まった。


「紙月、ここから先は、いままで通りじゃ掘れないみたいだ」








用語解説


・《セイリュウドラゴン》

 ゲーム内アイテム。同名の敵を倒すことで入手できる。

 これ単体だとアクセサリー扱いで、木属性の攻撃力防御力上昇補正がかかる。

《豊かな森の実りあれ! セイリュウドラゴン!》


・《スザクバード》

 ゲーム内アイテム。同名の敵を倒すことで入手できる。

 これ単体だとアクセサリー扱いで、火属性の攻撃力防御力上昇補正がかかる。

『消えぬ炎の小太陽! スザクバード!』


・《ビャッコタンク》

 ゲーム内アイテム。同名の敵を倒すことで入手できる。

 これ単体だとアクセサリー扱いで、金属性の攻撃力防御力上昇補正がかかる。

『鋼のきらめき敵を裂く! ビャッコタンク!』


・《ゲンブシールド》

 ゲーム内アイテム。同名の敵を倒すことで入手できる。

 これ単体だとアクセサリー扱いで、水属性の攻撃力防御力上昇補正がかかる。

『止まらぬ瀑布の大結界! ゲンブシールド!』


・《超合金エレメンツ》

 ゲーム内アイテム。《セイリュウドラゴン》、《スザクバード》、《ビャッコタンク》、《ゲンブシールド》を揃えて同名のボスキャラクターを倒すことで入手できる鎧。

 なお設定上、同名のボスキャラクターのレプリカということになっており、属性効果は金属性しかない。

 金属性の属性鎧としては最高の防御力を誇るが、どう見ても世界観から浮いているビジュアルのため、使用者は限られていた。

 なお、装備する度に変身バンクを流す(※スキップ可)という特殊装備でもあり、このバンク中は敵が行動を停止するというバグを突き、一人が装備と解除を繰り返し、一人がぼこ殴りにするという戦法が一時はやった。

 バグの修正理由は「正義の味方らしくないから」。

『往け! ぼくらの超合金エレメンツ! 往け! ぼくらの夢と勇気を乗せて! 絶対無敵! 四神合体超合金エレメンツ!』


・《ラウンドシールド・オブ・ゴブニュ》

 《楯騎士シールダー》の覚える金属性防御|技能《スキル》の中で上位に当たる《技能スキル》。

 自身を中心に円状の範囲内の味方全体に効果は及ぶが、使用中は身動きが取れず、また常に《SPスキルポイント》を消費する。

 未来はこれを改変して円盤状の大盾にし、またゆっくりではあるが移動を可能にしているようだ。

『鋼の盾は、鋼の剣を挫く』

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