第三話 穴守
前回のあらすじ
ムスコロのうっかりポロリで紙月に火が付いた。
言い方って大事だよね。
ムスコロの不用意な発言で凍り付いた空気が、シャルロの淹れた
「そもそも、依頼の内容自体を聞いてなかったな」
「帝都の冒険屋が困っているっていうくらいだから、結構大変な依頼なんじゃないの?」
「へえ、帝都に地下水道が流れてるってのはご存じで」
「ああ、前になんか聞いたな」
スプロのような小さな町にはないが、帝都をはじめとした大きな町というものは、大概が古代聖王国時代の遺跡である地下水道を抱えているというのは、帝都に来たばかりの頃に軽く聞いたような気がする。
「地下水道があるおかげで帝都はまあまず水には困らないんでやすが、なにしろほとんど技術の失われた古代の遺跡でやすから、使い方はわかっても、どういう仕組みかってのはまだまだ分かんねえことが多いもんで、冒険屋たちが探索して、調査したり、住み着いた魔獣を退治したりってのは割とよくある話で」
フムン、と紙月は頷いた。
普段生活するうえで水道というものをあまり意識したことのない現代っ子である二人だが、しかしこれが古代遺跡の地下水道となると、ファンタジーではよく冒険の場となる馴染みのシチュエーションである。
《エンズビル・オンライン》においても地下水道と銘打たれたダンジョンが存在し、恐ろしく広大で複雑なこの迷宮は、有志の作った地図を見ながらでも迷うことがあるという代物だった。
「その地下水道が舞台ってことは、なんだ、魔獣退治か?」
「ちょっと違うんでさ」
聞けば、なんでも少し前に、未踏破区域の地図作りの依頼をこなしていた冒険屋が、
「穴守?」
「魔獣だったり、からくりの化け物だったりするんですが、要するに遺跡の番人ですな。地下水道はあちこちにこの穴守が腰を据えて、通路やら部屋やらを護ってるんで。大抵は近づかなきゃあ無理には追いかけてこねえんですが、重要な通路や部屋を護ってるんで、水道局としちゃ是非にも排除してえんでさ」
「水道局?」
「免状を頂いて地下水道の水利を牛耳ってる組合ですな。依頼もその水道局から」
穴守。
要するにダンジョンのボスを片付けて来いという依頼であるらしい。
何々を採取してこいとか、何々を届けてくれとかいうよりも、余程シンプルでわかりやすい依頼だ。
「穴守が出た時は、まず斥候が依頼されやす。要は、どんな奴で、どれくらい強くて、どんな手段を持っているか、そう言うのを調べて来いって依頼ですな」
これはもう済んでいて、斥候慣れした冒険屋パーティが、手痛い反撃を受けない程度にちょっかいを出して調べてきたそうである。
ところがその調査結果と言うのがまず問題だった。
「なんでも巨大な鋼のからくりで、天井まで頭が届く大鎧の化け物みたいなやつだそうですな。通路一杯に塞いでいるから、横を通るのも難しい。近づくと警報を鳴らして威嚇してくる。それも無視すると攻撃してくる、とのことでやす」
「どんな攻撃をしてくるのかはわかっているのか?」
「腕が四本あって、ひとつは金槌のように殴りつけてきて、ひとつは剣のようになって切りかかって来るそうです」
「残り二つは?」
「ひとつは盾になっていて恐らく防御に使うだろうと言ってやすな。使わせるほどのダメージは与えられなかったようで」
「余程頑丈なんだな」
「まあ、普通の剣では文字通り歯が立たないそうですな」
「あとひとつは」
「筒のようになっていることしかわからんかったと」
「まさしく奥の手なのかね」
これらの情報をもとに、何組かの冒険屋がすでに挑んで、そして敵わなかったのだという。
剣で挑めば刃がかけ、戦槌で殴っても弾かれ、勿論矢など通りはしない。
中には組み付いて下水に落とそうとした剛の者もいたようだったが、重すぎてびくともせず、かえって振り払われて下水に叩き落されたそうである。
これだけなら笑い話で済むが、実際には、返り討ちにあって死亡した冒険屋も出ているという。
「おかげで賞金額はどんどんあがってるんですが、何しろ結構な腕前の冒険屋も返り討ちに遭ってやすから、なかなか新しい挑戦者がいねえんでさ。新しい情報だけでも賞金が出るんですが、それを引き出すのも難しいってんで、はあ」
「お前、そんな化け物相手に勝てるって吹聴してきたわけか」
「め、面目ねえ」
「いや、いや、いや」
怒っているのではない。
紙月はむしろにやりと笑った。
「歯ごたえのあるやつが欲しかったところだ」
用語解説
・地下水道
大きめの街には大概存在する、地下に作られた水道。またそれに関連する水道施設。
多くは古代王国時代に作られた遺跡を流用しており、不明な点も多いため、冒険屋が定期的に潜って調査している。
・穴守
古代王国時代の遺跡に存在する守護者の総称。機械仕掛けの兵器であったり、人工的に調整された魔獣であったりする。
・水道局
水道の利用や整備を取り扱う組合。知的労働者や技術者が多く、荒事はあまり得意ではない。冒険屋に相当する自前の荒事部門を作ると冒険屋組合の権益を侵害してしまうので、冒険屋を雇って調査を依頼している。
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