最終話 オールド・レッド・ストーンズ

前回のあらすじ

無事救出されたピオーチョ。

主人公組? 多分無事だろ。






 崩落から掘り返されてしばらくの間、屋根のあるところが落ち着かなくなってしまったという後遺症はあったものの、紙月と未来は無事救出され、自然の猛威というものを前に自分たちができることなどたかが知れていると反省を新たにしたのだった。


「崩落を支えるまではできても、支え続けるには《SPスキルポイント》が足りなかったな」

「もうちょっと判断が遅かったらまずかったね」

「おう。あんときは助かった」


 崩落を支えた《タワー・シールド・オブ・エント》は一同の命を救ったものの、囀石バビルシュトノたちの救助が来るまでの間を支え続けることはできず、このままでは落盤の直撃を受けるというその直前になって、未来が思いついたのである。


「紙月、一瞬だけ装備解くから僕に抱き着いて!」

「へえ!? あっ、ちょ、まっ」

「よし、もう一回!」


 《技能スキル》が解除される直前、未来は一瞬だけ装備の鎧を解除し、小学生の体をさらした。そして紙月がそれに抱き着くや否や、再度装備を着直したのである。

 何かが密着した状態で試したことはなかったのであるが、試してみればやはり予想通り、鎧は紙月の体ももろともに未来に纏われ、無事簡易シェルターの役割を果たしてくれたのだった。


 救助されるまでの間、非常に窮屈な状況で我慢する羽目になったとはいえ、何しろ紙月一人であれば崩落に間違いなく簡単に押しつぶされていただろうから感謝の言葉しかなく、未来の方も何やら自然の猛威に思うところでもあったのか、救助されたときには子供ながらにいくらか男らしい顔立ちになっていた。


 未来たちの陰になるように護っていたピオーチョはやや心配ではあったが、年の割にはやはり頑丈で、打ち身はしたものの数日しない内に自力で歩けるようになっていたというのだから大したものである。


 囀石バビルシュトノのミノなどは崩落の中を早々に掘りぬいて離脱し、揺れが収まったのちは早速三十二体がかりで救出作業に精を出してくれるという如才なさである。


 これで無事依頼は完遂、と言いたいところであったが、問題はあった。


 というのも、目的の鉱石も、石食いシュトノマンジャントの素材も、もろともに崩落の下敷きになってしまったせいで、回収に時間がかかっているのだった。


「まあ、崩しちまったらそりゃあそうなるわなあ」


 一応ピオーチョとミノたちが掘り返して、ある程度まとまったら帝都に送りつけてくれる手はずになっているのだが、何しろ大掛かりな崩落であったから、土掘りに慣れた土蜘蛛ロンガクルルロと言えど、またそれ以上に手慣れた囀石バビルシュトノたちと言えど、一朝一夕で片付く仕事ではないようだった。


 囀石バビルシュトノたちからすれば、石食いシュトノマンジャントたちを退治してくれた上、その後廃鉱山を好きにしていいという許可も町から得られたので万々歳であるようだったが、ピオーチョにしてみれば街のお歴々からも怒られるし、事務所の所長からも叱られるし、虎の子の発破も使い切ったし、その上しばらくは坑道掘りで忙しく、赤字もいい所であるらしい。

 それでも仕事は仕事であるから、帝都から報酬が届いたあかつきにはきちんと折半してくれるとのことらしいが。


「しかしまあ、仕方がないとか面倒くさいとか散々に手紙には書いてきてるけど」

「いい笑顔だよねえ」


 紙月たちが後を任せて去っていった、その後の事情を手紙にしたためて送ってくれたのだが、これに同封されていた、囀石バビルシュトノの特産であるという光画――つまり写真には、実に清々しい笑顔を浮かべてミノと肩を組むピオーチョの姿があったのだった。


「まあ、何十年来って友達ってことになるんだもんね」

「間は空いちまったけど、その分話すことは多そうだよな」

「ぼくらもそう言う長い付き合いになるかな?」

「お前が俺を捨てない限りは大丈夫じゃないかな」

「ぼくも、紙月が僕のこと育児放棄しなければ大丈夫だよ」


 けらけらと笑って、二人は、それから同時にテーブルに突っ伏した。

 がさがさと荒い紙質の新聞を、未来はくしゃくしゃと畳んだ。


「で、今度は何だって?」

「地竜殺しの次は、山殺しだって」

「ぐへえ」


 地竜殺しという二つ名があまりにも高名すぎて仕事が入らなかったところに、今度はどう話が伝わったのか、魔法で山を砕いた山殺しなどというとんでもない二つ名がついたものである。

 山を砕いたのは発破であるし、砕いたといっても一部分だけであるし、そもそも二人の仕事ではないのだが、はやし立てる方は面白ければそれでいいらしく、気にした風もない。


 これがミノの町だけの下らないうわさ話であるならばよかったのだが、どこの世でも人の口に戸は立たないというか、むしろ人の口空を飛ぶというか、こうして新聞の形になってスプロの町にまで届いてしまっているのである。


 おかげで真っ先に新聞を読むことになったおかみのアドゾは大いに笑って、それから真顔で、あんたたち自分が何をしたかわかってるかい、とまた例のお説教であった。


 二人の平和な冒険屋稼業は、遠そうだった。






用語解説


・光画

 囀石バビルシュトノたちの特産。いわゆる写真。帝都大学など、一部の学者が技術提供を受けて再現もしているようだが、囀石バビルシュトノほどきれいな写真はまだ難しいようである。

 なお、記録物としては評価を受けているようだが、美術品としての評価はまだこの世界にはないようである。


・新聞

 この世界では、印刷技術こそ未発達なものの、魔法による転写技術は発達しているようで、それなりに多くの刊行物が見られる。

 新聞もその一つで、大きめの町には一社か二社新聞社があるものだし、中には近隣の町まで配達している新聞社もあるようだ。

 帝都新聞などはいくらか遅れるものの、帝国各地へと配達されて読まれているほどだとか。


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