第2話 久しぶりのマック
トラックに跳ねられてアニメやラノベのように異世界に飛ばされて。そこで一生を終えて戻ってきた元の世界でもまた、俺たちは一緒にいる。
「クラスの連中と話が合わない……」
学校帰りのマックでぼんやりと晃が呟けば、直尚も深く同意するように頷いた。
「わかる。まあ俺たちも晩年は、畑の芋の収穫どうしようとかそんな話ばっかりしていたからな」
「そう、暖炉に火をくべながら……薪割りで身体を鍛えたのが懐かしい……」
「うちに来たばかりの頃ひょろっひょろだったからなぁ、お前。しかし比べるまでもなくエアコンほんと楽だよな……。ああ、あと久しぶりにテレビ見たら騒がしくて耐えられなかった」
「お前それは……いやわかるけど……」
「それからやけに腹が減る」
「身体は若いからな」
二つ目のバーガーをぺろりと平らげた直尚の姿に、向こうで暮らし始めた頃の姿を重ねた晃は目を細くする。とはいえ事故後の病み上がりの身であることを差し引いても、体格にかなりの差があることは明らかである。
厳しい鍛錬と長い旅の果てに魔王を倒したばかりだった勇者の身体と、剣道部の元エースとはいえ普通の男子高校生とではそもそも鍛え方が違う。それに比べて俺は大して変わらないなぁと自分の胸元を学ランの上からぺたぺた触っていた晃は、じっと見つめる視線に気がついて笑った。
「えっち」
「まだ何も言ってない」
「……したい?」
「今の俺たちはそういう関係じゃないだろ。したいけど」
「じゃあ、今度は恋人から始めよっか」
向こうの世界ではいろいろあって、一緒に暮らし始めた最初から伴侶の関係だったので。
「まあ、もちろんお前が良ければ、だけど」
「うん。良い」
「即答かー」
迷いがねぇなぁと笑う。あの時とは状況も境遇も何もかもが違うのだから、選び直しても良い筈なのに。
「こっちでもお前が良い」
直尚のまっすぐな返答をまっすぐに受け取った晃は、思わず両手で顔を覆ってしまった。
「さすがに直球すぎて照れる……」
「二度目だろ」
「そうだけどさー」
しかも一度目は、王や王族や臣下たちの目の前で堂々と言い放ったのだ、この男は。それに比べれば、誰に聞かれてるかわかったものではないマックの店内でも堂々と言ってのけるだろう。
わかっていたのにこんな場所で聞いてしまった、己の迂闊さもまた昔と変わらないものだった。そうだ、そんなんだから彼のような勇者ではなく、奴隷などに身を窶す羽目になったのだと思い出して、晃はそっと溜め息を吐いた。
とっくに終わった話ではあるが、その辺りのことはあまり思い出したくない。
「逆に聞くけど、晃の方こそ俺で良いのか?」
あの時と状況も境遇も違うのはお互い様だ。だからこそ確認するかのように問いかけてくる直尚に晃は、まあ答えは決まってるんだけどなと思いながらも真顔で問い返した。
「やだ、やっぱり別の奴が良いって俺が言ったら、直尚はどうするんだ?」
「俺を選んでもらえるようにがんばる」
「何をどうがんばるんだよ」
「それは、」
「こっちには王も魔王いないからお前は勇者になれないし、俺も魔王討伐の褒賞にはなれないぞ?」
「えっと、」
世界の脅威であった魔王を倒した勇者とは思えないほどの狼狽ぶりに、気合を入れて作った筈の真顔があっけなく崩されてしまう。諦めた晃は「冗談だって」と降参した。
「さっきの言葉で充分惚れ直したから」
なぁ、元勇者さま、と。
勇者の元伴侶が笑って見せたので、元勇者も安心したように笑い返した。
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