植物園に行きました
今日はペアルックみたいにはならないようにしないと、と亜貴は思いながら鏡の前に立つ。服を選ぶのは面倒くさい。亜貴はファッションに興味がないほうだ。制服なら楽なのにとぶつくさ言いながら服を合わせる。そして思いついた。
「ワンピースなら流石にかぶらないわよね」
デニムのシャツワンピースを着てみる。そして厚手のカーディガンを羽織った。
「これなら女女してないし、いいかな」
亜貴は満足して、自室をでた。
「あら今日もお出かけ?」
「うん。友達と植物園に行くの」
奈津が用意していたピザトーストを食べながら、亜貴は答える。
「最近よく出かけるわね? 本当に彼氏じゃないの?」
奈津の言葉に一瞬どきりとする。
「ないない」
と返して、
「じゃあ、行ってきます」
と家を出た。
植物園まではバスが出ている。
動物園と植物園がある、人気スポットだ。休日だし、人も多いだろう。
動植物園前という駅でバスを降りると近くで刻が待っていた。
「早いわね?」
「一本前のバスで来た」
刻は言いながら、亜貴をまじまじと見た。
「何?」
亜貴は自分の格好はどこか変なのかな、と不安になる。
「え、いや……。今日はワンピースなんだな」
「え? 悪い?」
「いや、よく似合ってる」
刻は視線を明後日の方向に向け、鼻の頭をかきながら言った。
「あ、ありがとう」
なんだか調子が狂うと亜貴は思った。ペアルックにならないように着てきただけなのに。
刻はというと、前回と変わりばえのしないデニムのパンツにチェックのネルシャツにパーカーだった。それなのにルックスがいいからか野暮ったさが全くない。先程から振り返って見ている女子もいる。容姿に自信がない亜貴は隣にいるのが気が引ける。
「どうかしたか? 動物園もあるけど、植物園でいいんだよな」
「うん。動物も好きだけど、今日人多そうだし、私は花の方が見たいから」
「そっか。じゃ、行こうぜ」
亜貴たちは植物園の方の入り口をくぐった。
「まだあまり花が咲いてないな」
二月下旬の植物園はまだ色が寂しい感じだった。
「そうね。一ヶ月違ったら春の花がいっぱい咲いてたかもね」
それでもパンジーやデイジーなどは咲いていて、綺麗に並べられていて綺麗だった。水仙も色々な種類があった。
「フリージア!」
黄色、白、そして赤紫のフリージアが咲いていた。赤紫は珍しいと亜貴は思った。花らしい良い香りがする。
「可愛いわよね、フリージア」
亜貴の言葉に、刻は困った顔をした。
「女子って、可愛いって言葉よく使うよな。感覚があまりわからないけど」
亜貴はその刻の言葉の方が分からないという顔をする。
「可愛いじゃない! 形とか、色とか」
「まあ、たしかに色は鮮やかで綺麗だよな」
亜貴は花を見つける度屈んで見ている。そんな亜貴を刻は後ろから見ていた。
「クリスマスローズだよ! この花可愛らしいのに強いんだよね」
「ふーん。強いのはいいよな。育てやすいだろうし」
他、マーガレットやクロッカス、シクラメンなどを見て回った。
薔薇園のコーナーがあるのを見て、亜貴はため息をつく。
「私、薔薇大好きなのよね! 今は時期じゃなくて残念! 」
「時期の時にまた来ようぜ」
刻は言って、しまった、という顔をした。つい出てしまった言葉だった。亜貴はちょっと驚いたように刻を振り返った。
「……えっと、友達とたぶん来るわ」
戸惑うような亜貴の言葉に、
「別に恋人としてとか思ってねーし。深読みすんなよな」
と刻は間髪入れず返した。
「わかってるわよ」
なんだか微妙な空気になるのを振り払うように、
「あっちに温室があるから行きましょ」
と亜貴は足を踏み出した。 刻も亜貴について行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます