Killing Dead!!!-喰祭の儀-
藤村銀
序章『Hunt You Down』
澄み渡る夏の風が吹き抜け、空には夜の帳が下りていた。暗幕には色とりどりの金平糖を散りばめたような、光輝く大小様々な星々。そして今にも落ちてきそうなほどに大きい満月があった。
仄暗い夜闇の中、輪郭が浮き上がるような美しく艶やかな銀髪を振り乱し、
ゴッ、という骨と骨がぶつかる鈍い音が響き、次に肉がひしゃげて内側から血が吹き出す湿っぽい音が鳴る。
温かな返り血は、花がパッと咲くようにして灰音の白い頬に飛び散る。
「……ッ」
これでも倒れない敵を前にして、灰音の目の形が歪む。
拳を突き出し、爪で穿ち、内蔵を蹴り上げようとも彼女の敵――
玖朗は誰がどう見ても満身創痍で、生きていることも不思議な状態だった。
右腕は欠損し、そこからバケツをひっくり返したような、夥しい量の血が流れ、玖朗の足元に湖を形成していた。
対して灰音は、返り血で顔も拳も服も汚れているものの、一切の怪我はない。
だというのに、満身創痍の敵を前にして灰音は、言い知れぬ恐怖を抱いていた。
どうして倒れない。
どうしてその目は死なない。
どうしてそうまでして立ち向かう。
――どうして……
膝を屈しないようにするのが精一杯の玖朗は、うわ言のように、ただただ繰り返す。
「僕、が……今、その、君を、殺して……あげる……だから、待ってて、灰音、ちゃん」
そうして一歩、灰音へとおぼつかない足取りで歩み寄る。
ぞくりと灰音の背筋が粟立つ。
「ああああああああああ――ッ!!」
気が付けば灰音は、獣の雄叫びと共に駆け出していた。
一瞬の間の後、薄汚れた廃ビルの壁に血が舞った。
それでも玖朗は失ったハズの右腕を伸ばし、彼女を捕まえようとする。
「灰音、ちゃん……僕が絶対、殺す、から……」
何が玖朗をここまで駆り立てるのか――灰音には、わからない。
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