Future Pupil

彩桜 真夢歩

第1話 梅雨の悲劇

「お父さん、お母さん、お姉ちゃん……


 お願いだから行かないで!!」






 私の必死の抵抗も虚しく






「いきなりどうしたんだ。


 そんなに心配しなくても、発表会が終ったらすぐに帰ってくるよ」




「じゃあ……そうだ!今日のお夕飯は來乃らなの好きなオムライスにしましょう」




「帰ってきたらまた話を聞かせてあげるね?來乃!」






 その言葉を残して、両親と姉は私の前から




 ……姿を消した───








 ゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜




「突然の出来事で、さぞかしお嘆きのことでしょう。お悔やみの申し上げようもございません。」


 そんなマニュアル通りの言葉なんて、要らない……



「來乃ちゃん。 これから大変だと思うけど頑張ってね」


 他人事のように……



「元気出してね」


 そんな簡単に言って、あなたに何が分かるの……



「困った事があったら、いつでも頼っておいでね」


 綺麗事言わないで。目では『絶対来ないで』って訴えてるくせに……




ああ、煩わしい……


いっそのこと、全ての音を遮断できたらいいのに。



梅雨に入った今、外では地面に雨が叩きつけられる音が止まない。


けれど、目の前の、親戚と本当に呼べるのか危ういほど、薄い繋がりしかない大人達の声が聞こえなくなることは、決して無かった。



二日前、両親と姉を事故で亡くした。


呆然と立ち尽くす私をよそに、繋がりの薄い親戚達によって、葬儀は着々と行われた。



実際、やりたくて立ち尽くしていたわけではない。


両親や姉に触れようとするのを、親戚達が拒んだのだ。


『化け物には触れられたくない』と。



薄い繋がりの親戚だが、おおらかで優しく、裏表のない両親のことは好いていたようだ。


それから、その娘である姉のことも。



そう。私を除いて、私の家族は気に入られていた。


私だけが、家族から切り離されているかのように忌み嫌われていた。



私が持っている〝力〟のせいで……




事故が起きたあの日、姉の通う音楽教室の発表会があり、両親と姉は出かけていった。


私も誘われたが、人混みが苦手な私はそれを断った。



人混みの中にいると、意思と関係なく〝力〟が発動してしまうから。




三人が家から出ようとした直前に、私は既に、三人が事故に遭うことを分かっていた。


必死に引き止めようと説得を試みたが、来年から県外へ進学してしまう姉の最後の発表会のため、最終的には止めることができなかった。


家に一人残された私は、ただただ祈るばかりだったが……


その祈りも届かず、三人は旅立ってしまった。




事故の連絡が来た時、涙は出なかった。


分かっていたからではなく、分かってはいたが、心がついて行かなかったのだ。


それに私に───分かっていながらにして止められなかった私に、泣く資格などない。



……だからきっと、今降り続いている雨は、私の代わりに泣いている。


両親と姉に触れることさえ許されない私の代わりに。



〝化け物〟と忌み嫌われる原因となったこの力───


〝未来が見える力〟を持って生まれてしまった私の代わりに……

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