第12話 期末試験のその前に

「ハァ...。」


「ユースケっ!」


いきなり背中を叩かれた。驚いた俺は後ろを振り返る。そこには、武田さんがいた。


「や!朝早くから勉強なんて感心、感心!で、ため息なんかついてどうしたのさ?」


「いや、みんなから教えてもらったのに赤点回避できなかったらどうしようって考えると緊張しちゃって...。」


ついに迎えた二年生最後の期末試験。何度も言うが、ここで赤点回避できなければ留年ということになってしまう。泣いても笑ってもこれが最後の試験なのである。試験開始まであと約1時間。最後の追い込みをしている。


「だいじょーぶだって!なんてったってあたし達が教えたんだから!落ち着いてやればいけるよ!」


武田さんが励ましてくれる。


「ありがとう。そうだよね、弱気になってちゃダメだよね!」


とはいえ、緊張しているのには変わらない。赤点だったらどうしようと思ってもいる。だが、そんな自分を押し殺し、無理にでも元気を出す。思えば、この3週間かなり勉強していた。冬休み課題テストの再試験の期間も入れれば、約1ヶ月。今までの俺では考えられないくらい勉強していたと思う。今までは、平日は勉強はせずにゲームをしていた。休日はやっても宿題を2時間ほど。そんな俺が、平日は3〜4時間、休日は8時間くらいやっていただろうか。こんなに勉強していたことが自分でも信じられない。だが、ここまでできたのは俺だけの力ではない。5人が勉強を教えてくれたから、5人がいたからできたことだ。5人にはすごく感謝している。感謝してもしきれないくらいだ。だから、この恩を仇で返す訳にはいかない。赤点回避しなければならない。


「あたしね、中学生の時まですごくバカだったんだ。テストはいつも20点くらいでね、全然勉強ができなかった。おまけにこのギャルっぽい見た目のせいで周りからは蔑まれた目で見られて避けられてたんだ。」


「そうだったんだ...。」


武田さんは確かに見た目はギャルっぽいがフレンドリーでこんな俺とでも仲良くしてくれている。こんないい人にそんな過去があったなんて正直想像できない。


「それでね、高校生になって彩と出会ったんだ。元々、ライブハウスでサポートドラムをやってたんだけど、たまたまそれを見てた彩が一緒にバンドやらないかって誘ってくれてね。勉強も彩達が教えてくれたんだ。今のあたしがあるのは彩達のおかげ。まぁ、つまり何が言いたいかって言うと、あんなバカだったあたしでも出来たからユースケも出来るよってこと!」


「ありがとう!なんか、いけるような気がしてきた!」


「ふふっ、それはよかった。」


ガラガラッ


教室の扉が開き、緒方たちが入ってきた。


「おはよーっ!早いねー!」


相変わらず緒方はすごく元気だ。


「おはようございます。試験勉強、大丈夫ですか?」


天王寺さんが尋ねてくる。


「おはようございます。お陰様で!」


「さっ!みんなもテスト直前の勉強するんでしょ!」


武田さんがみんなを引っ張る。


「そうだね、最後まで頑張ろ!」


「なんか今日の美緒、テンション高くない?いい事でもあった?」


「え〜、そんな事ないって!いつも通りだよ!」


「顔も赤いよ?」


「ち、違っ!ウゥ...。い、いいから勉強するよ!唯!」


「小林くん、試験前最後になりますが、どこか分からないところはありますか?」


「あっ、昨日ここやっててわかんなくなっちゃったんですけど。」


「ここは、最後の段落を見てあげると筆者の言いたいことのヒントがありますよ。」


俺は今までコミュ障というのもあるが、人と関わることを避けてきた。人付き合いなんて面倒なものだと思っていたから。当然、友達も少ない。けど、それでもよかった。俺には、二次元があるから。だけど、緒方たちと過ごしていく中で友達と過ごすのも悪くないと思い始めた。むしろ、楽しすぎてこの6人の時間がずっと続けばいいとさえ思うようになっていた。


だが、そう上手くはいかない。経験した事の無い未知の感情がそれを邪魔しようとしている。そして、最後には決めなければいけなくなる。しかし、そんな事を今は知る由もない。


ついに、試験の時間が迫ってきた。


「さあ!みんなで2年生最後の期末試験、頑張ろーね!」





第13話 「始まる試験、逃れろ赤点」に続く。

次回更新は4月19日(日)の予定です。

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