続よだかの星

@wizard-T

第1話 わしが聞いた噂

「本当かよ……」

「間違いございませんわ」

 俺はカシオペヤの言葉に、くちばしを大きく開ける事しかできなかった。


 あの情けなくて弱虫だったよだかが、こんな大きな空の星になった。とても信じられねえお話だった。


「私ははっきりとこの目で見届けましたわ。私に訴えかけてくれなかったのは淋しいですがきっとそれがかなわぬほどに弱り、空を舞う事に集中していたのでしょう」

「あいつがそれ相応の身分だったって事か、それを見抜けなかった俺はバカ……いや未熟って事かよ」

 俺がバカを未熟と言い換えたのは、つまらないプライドだ。バカは死んでも治らないとか言うけれど、未熟ならば完熟になればいいんだから。


 とにかく、あまりにも衝撃的だったこの話。

 よだかがカシオペヤの隣で星になったと言う話を俺は沸騰した頭でばら撒き、地上の鳥たちにも伝えてやった。ただ必死に、言いふらしまくった。何の意味もなく、むやみやたらに。




「いやーねえ、まさかそんな事があるわけないでしょ」

「お前は何だ?カシオペア様が大ウソつきだってのか?」

 ひばりは俺の噂話を笑い飛ばした。まあ正直おせじにも美しい鳥とは言えないひばりだったけど、そのひばりとて見下していたのがよだかだった。もちろん俺もだが。

 それが空に強く輝く星になったと言う話を急に聞かされた所で、信じろと言う方が無理があったのかもしれねえ。

「それがどうも本当らしいんですわよ。このお方だけではなく、あのおしゃべりなカシオペヤ様が言いふらしているんですから」

 ひばりの話し相手であるすずめもまた、天と地がひっくり返っている現実をその目に焼き付けさせられ、信じたくないけれど信じなければいけない、みんなに伝えなければいけないと言う気持ちにとりつかれてた。ああ、俺とまったく同じだ。

「わしさんもご覧になっているでしょう、ここ最近の小鳥たちのあわてぶりを?」

 確かにあんな話が伝わってからと言うもの、おしゃべりな小鳥たちはひどくあわてふためいていた。何せ、陰口どころか面と向かってよだかをバカにしていたのに、そのよだかが全く手の届きようのない高みに行ってしまったんだから。

「それならばなんで最近、かわせみがあんなにイライラしているんですの?お教え願います?」

「本人に聞いていないのでわかりかねますけど」


 で、よだかの弟であるかわせみは、最近ひどく不機嫌らしい。

「だから僕には関係ないの!」

 かわせみは美しい姿に似合わぬどなり声を上げて小鳥たちを追い払っていた。小鳥たちが飛び去った後には魚、そう彼らが食べるはずのない物が散らばってたそうだ。

「ったく、兄さんはなんであんな事を…」

 かわせみは散らばっている魚をかえりみることなくため息をついた。

 もちろん、かわせみとて兄であるよだかが空の星になった事は知っている、しかしそれはかわせみを一人っきりにする事でもあった。もちろんかわせみはその事に関しても腹を立てている。


 しかしその原因はもっと他にもあった。

「見てくださいよこの魚……」

 よだかが空の星となってからと言うもの、かわせみにへつらう小鳥が現れ出した。それも一羽や二羽じゃねえ。まあ毎日毎日かわせみの食事である魚を取っては届けを繰り返しているらしい。

「で、かわせみやはちすずめが何かしたのかよ」

「夜空の星になられたご立派なよだか様の、美しき弟君であらせられるかわせみ様、どうか自分たちの事をよき鳥であると兄君様にお伝えくださいまし……」

「そういう事かよ……」

 余りにも見え透いた小鳥たちのおべんちゃら、さらに言えば手のひら返しにかわせみはひどくイライラしてた。まあ、当たり前だよな。

「とくにひどいのがめじろですよ」

「お前俺が怖くないのか」

「怖いですけどね、そりゃまあ怖いですけど。あそこまであからさまにやられると怒鳴りつける気も失せてきますよ」


 めじろってのは、以前よだかに巣から落ちたひなを助けられておきながら相当にぞんざいな扱いをしてしまったこともあり、その事を親子そろって必死になって償う、というより逃げるために、なんと最近では親子そろってかわせみやはちすずめのごきげん取りを必死にやっているらしい。


 そしてこの小鳥たちのおべんちゃらと手のひら返しが、あのお方をいらつかせていた。


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