トレーニング開始
弥生はカブをぶっ飛ばして森を抜けて廃村のような所に着いたら降りるように言ってきた。この先どうしていいか分からないけど、弥生が何とかしてくれるんじゃないかと思っていた。しかし、弥生は話し出した。
「じゃあ、今日は遅いからもう寝るぞ。明日は朝から起きて体力作りのためにトレーニングだ。魔獣退治のためには体力が一番大事だからな。」
え?運動なんて大嫌いなんですけど…でも、でも!魔獣退治?!なんてカッコイイ響きなんだ!発達障害って好きなことには没頭できるし運が良ければその分野で天才にもなれるって医者に言われてたの思い出した!いいんじゃない?こんな訳の分からない世界でも、スーパーヒーローになれるんじゃない?!ワクワクしながら弥生が用意してくれていた布団で眠りについた。
翌朝、弥生に叩き起されて今週1週間のトレーニングについて説明された。それがこれだ。
・腕立て30回10セット
・腹筋30回10セット
・背筋30回10セット
・ランニング2時間
こんなん初心者に付けるトレーニングか?!と思ったが躁状態の羅美はカウントしてくれる弥生の横で必死に腕立てから初めて、休憩も挟みつつで結局5時間経った時ようやく終わった。
「やるじゃないか、正直無理をさせてしまってはないかと思っていたが。」
無理させようとしてたのかよ…弥生が用意してくれていた昼ごはんはとてもあっさりしている。低カロリー高タンパクといったところか。ふとバッドタイムに入ってしまった。いつもこうだ、突然なんの前触れもなくバッドタイムに入る。こんな障害者が、魔獣退治…?そんなこと出来るわけない、人より劣ってるあたしが出来るわけない。悲しくなって辛くなって、涙が出てきた。弥生が驚いて大丈夫か?と声を掛けてくれたが何も言えなかった。でも、こんな世界で唯一の同じ日本人、話してもいいんじゃないかと思った。
「あたし、躁鬱なんよ…それで突然鬱状態なってもうて、ごめんな…それでさ、あたしADHDと自閉症っていう発達障害ももってるねん、こんなあたしがほんまに魔獣退治なんか出来ると思う…?」
弥生は何故か笑顔になった。訳が分からなかったが話し始めた弥生の言葉に驚いた。
「私も元の世界に居た頃は発達障害だと診断されててな、生きる希望もなくて飛び降りたんだよ。そしたらここに居たって話なんだ。もしかしたら私が召喚した時に羅美がこの世界に来たのは、何か同じ境遇があったからなのかもな!」
え?弥生が…?こんなに普通に話しているし、コミュニケーションも取れてる。信じられなかったが、弥生は話し続けた。元の世界ではコンサータを72mg、最大容量飲んでいたが学校では勉強も人付き合いも上手くいかず、金遣いも荒くて貯金が出来ないどころか借金だらけ。親にも見捨てられダムに飛び降りたらしい。
「そんな私でも魔獣退治が出来てるんだ、そう落ち込まずにポジティブに考えないか?発達障害は何かに没頭すると天才にもなれるんだ。医者に言われた言葉だ。」
あたしも言われたことあったなと思い出した。それからは朝と夕方にあのスケジュールでトレーニングを1週間続けた。1週間経った時には1番の苦痛だったランニング2時間も走りきれるようになっていた。そこで、弥生は弓矢の使い方を教えてくれると言いだした。的の中心に当てるのはとても難しくて、1ヶ月間トレーニングと並行して弓使いの練習もした。
にしても、こんな世界だから馬に乗って走りながら矢を放つのかと思っていたらあたしが原付を運転しながら後ろで弥生が魔獣に向かって矢を放つとは、なんとも変な世界だ。ちなみにこの原付、弥生がこの世界にある素材を使って1から作ったらしい。ガソリンは廃油を何度もこして綺麗にしてから入れているらしい。
半年経った時には5回に1回くらいは魔獣に矢を当てることが出来るようになっていた。夜は街を原付で駆け抜けながら弥生が矢を放つが、昼は森に入り走って逃げ隠れしながら魔獣退治をするのが日課になっていた。しかしある日弥生に、魔獣を倒し続けても魔女を倒さない限りどうしようもなく湧き出てくるんじゃないか?と聞いた。
「もちろん。最終的な目標は魔女を殺ること。そして、魔女がいなくなれば魔女の魔術で出来た森はなくなる。この街は広いから、街をひとつの国としたいんだ。」
なるほど、弥生は五年もルドットと暮らしていたというし、この街の人とは親しくなっているから突然現れた見ず知らずの人間に優しくしてくれた街の人に恩返しをしてあげたいのかもしれない。思えばあたしもレニアンに話しかけられてなかったらどうなっていたかわからない。この街の人達は優しい。
あたしも、弥生と共に街を救いたいと思った。
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