24話「2人の温かい夜」






   24話「2人の温かい夜」





 「空澄、ぼーっとしてないか?」

 「え!?」



 夕食を食べながら、先程の璃真の手紙を思い出してしまい、そのまま考え込んでいた空澄は、希海の声でハッとなる。

 箸を持って、ジッと彼を見つめていたのだ。彼が怪訝に思うのは仕方がないだろう。


 空澄は「ごめん……ちょっと考え事してた」と返事をしてご飯を口にしたけれど、希海はまだ心配そうに空澄を見ていた。



 「考え事って………何?」

 「え……その………璃真の死因はなんだったのかな。とか……彼に何があったのかなって。調べてもよくわからないままだから」



 そう。空澄はもちろん璃真について調べていた。使われた魔法はなんだったのか。彼は何故死んでしまったのか。誰が関わっているのか。そんな事を調べていたけれど、ほとんど進展がなかった。

 そんな中で璃真の手紙が出てきたのだ。

 目の前の希海は何か知っているのだろうか。もし、知っているとしたら何故黙っているのか?

 自分が聞いても希海は答えてくれるだろうか。そんな事を考えてしまったからか、彼をジッと見てしまっていたようだった。



 「………あいつの荷物も届いたからな。また、深く考えすぎないようにな」



 そう言うと、希海はポンポンと頭を撫でてくれた。

 それからは璃真の話しは終わり、違う話題に変わってしまったのだった。

 きっと、希海は話したくないのだろうなと、空澄は思った。




 

 その日の夜は考えすぎなのか、空澄はなかなか寝付く事が出来なかった。

 そのため、地下室から本を持ってきて自室で読んでいた。途中で喉が渇いたので、キッチンへ降りようとした時だった。



 「………あ、希海」

 「遅くまで部屋の電気がついていたから心配してたんだ。眠れないのか?」


 

 廊下で希海と鉢合わせた。どうやら、希海は部屋からの物音で心配してくれていたようだった。



 「うん……なかなか寝れなかったから、お母さんの本とか読んでたの。いろいろ考えすぎたかな……」

 「無理するなよ?」

 「うん。ありがとう」



 そう言って彼の脇を通り抜けようとした。けれど、希海が空澄の手を突然掴んだので、そのまま体を引かれた。気づいたときには、希海に抱きしめられていたのだ。

 ポカポカと温かい彼の体。もしかしたら、希海は寝ていたのかもしれない。そんないつもより高めの体温は、空澄をホッとさせた。

 けれど、彼は何かを話さないで秘密にしているのかもしれない。そう思い出すと体に力が入ってしまった。



 「俺も寝れないんだ………。だから、一緒に寝ないか?」

 「……………へ?」


 

 しかし、彼が思いもよらない言葉を口にしたため、空澄は思わず体の力が抜けて、変な声を発してしまったのだ。

 希海は頬を染めながら、片手で顔を隠しながら、空澄へ言葉を返す。



 「………いいだろ?俺たち恋人なんだから……それに、別に変な事するつもりはない。一緒に寝るだけだ」

 「………しないの?」

 「していいのか?!」

 「………ダメだけど」

 「………おまえ、俺で遊んでるだろ」



 空澄の言葉で、一喜一憂する希海を見ているうちに、空澄はおもしろくなってついついからかってしまうと、希海ははーっとため息をつきながら、じとーっとした視線で空澄を見つめていた。

 そんな彼を見て、空澄は思わずクスクスと笑ってしまった。



 「ごめんなさい。何か、可愛いなーって思って」

 「………男でしかも年上なのに、可愛いはないだろ」

 「だって、そう思ったから。…………でもね、私も希海と一緒に居たら安心してぐっすり寝れるかなって思ったよ」

 「そうか………よかった」



 ホッとし、嬉しそうに微笑む彼を見ていると、空澄は先程までの考えが消えてしまうような気がした。

 自分の気持ちを知り、大好きになった彼と一緒に寝れる。それは空澄にとってもとても嬉しい事なのだ。



 「希海は布団だから………私のベットにどうぞ?」

 「あ、あぁ………」



 一緒に寝ると決めたはずなのに、いざ希海を誘うと恥ずかしくなってしまう。空澄は恥ずかしまぎれにすぐに彼に背を向けてしまうと、希海は後ろから空澄を抱き締めて「ありがとう」と耳元でそう言ってきた。いつもより甘みのある声に、空澄の体はゾクッと反応してしまったのだった。





 

 「シングルベットに大人2人は………けっこうキツイね」



 希海は身長も高く、がっしりとした体格のため、ベットが狭く感じられる。2人で寝るのは失敗しただろうか。そう思いつつも、いつも以上に近い距離に、空澄はドキドキしながらも嬉しくなってしまう。好きな人にもっと近づいたいと思うのは男女共に同じであろう。

 希海が窮屈そうかもしれないと思いつつも、空澄はこのままで寝てたいなと内心思っていた。



 「狭いならもっとくっつけばいいだろ?」

 「………っっ………」



 布団の中で希海が空澄の体を抱き寄せた。

 いつもより熱く感じてしまうのは、きっと布団の中だと思うようにしながら、空澄は赤くなった顔を隠すために彼の胸に顔を埋めた。



 「あ、空澄。寝る前にさ……」

 「え、何………?」

 「………おやすみ………」



 空澄が顔を上げて希海の顔を見た瞬間。

 希海は空澄の唇にキスを落とした。

 

 今日最後の挨拶。そして、キス。

 希海は慈しむように優しい微笑みを浮かべながらそう言うと、空澄の後頭部をゆっくりと押して、自分の胸の中に空澄を閉じ込めた。


 希海の体温と香り、そして鼓動。

 感覚全てが彼で満たされる。

 恥ずかしくて眠れないと思っていたはずだったが、それは杞憂に終わる。


 人肌の感触や隣に大切な人が居てくれるという安心感から、あっという間に眠りについたのだ。

 それは2人がほぼ同時だったのを、お互い知る事はなかった。





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