町田樹×記念切手詩

「以上のことを記念しまして

ここに切手を貼付いたします」


―――


いつからでしょうか

葉書の文化が寂れてから

こうして切手を湿らせて

左上の隅に貼るのも

久方ぶりのようです


私が今日まで

惑いつつ

挫けつつ

歩み続けた証を

ここに記して

皆様のもとへお送りします


さて、この1枚の切手は

私の30年の生涯の

ワンシーンを選り抜いたものです

思い起こすほどに

どの瞬間も

努々忘れられるものではありません

それでも

生涯の半分以上を

皆様と過ごしてきました


この記念切手は

決して私の人生のみを

映し出したものではなく

共にあった方々と

共有した景色を

鮮明に記憶するために在ります


個人の歴史のアーカイブの

ひとつの新しい形として

皆様の心のどこかに

生き続けてくれるなら

これほど幸せなことはありません

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