住み着かないで、生徒会長‼︎

雨晒

第1話 壊さないで、生徒会長‼︎ その1

平凡ほどいいものはない。


平凡が一番だしむしろ平凡を維持する方が難しいまである。何も起きずにただ過ぎていく一日。そうそれこそ正義なのだ。


非日常なんて求めていない、そんなの疲れるだけである。


だから今日も僕は一人で学校にきていた。友達はそれほど多くはないけれど、リア充とかいう非日常よりは何倍もマシだ。


人によってはそう思わないかもしれないけれど、それが僕の平凡な日常だからいいのだ。

個人が納得した日常を得られればそれでいんじゃないだろうか。


下駄箱に外履きを入れ、上履きを床へ落とす。

雑に足を突っ込んで、歩き始めると、そこにはショートボブの黒髪が特徴的な生徒会長がいる。


折鶴如おりづるきさら。才色兼備のカリスマ生徒会長である。

いつもの如く彼女は玄関で爽やかな挨拶をかましていた。

一年生で生徒会長に当選、今年の選挙でも当選が期待されている人だ。


きっと彼女の平凡は輝いていることだろう。

二位との圧倒的な差を見せつけた上で当選した生徒会長なんだからそうで間違いない。


日常って結局過去の積み重ねで決まるものだし。


「おはようございます、神名かみなくん」


「っす」


口の中だけで挨拶を済まし、教室へと向かう。

生徒会長のくせに、生徒一人ひとりの名前まで覚えているなんて、あんた聖人かよ……。


×××


朝の教室は相変わらず騒がしい。

いつもの騒がしさに今日も日常だと実感する。何か変化が欲しいわけじゃない。いつも通りがベストなのだ。


賑やかさに釣られて目を鞄から集団に移すと、いやでも堺路蓮架さかいじはすかが目に映る。肩にかかるくらいの髪は昔からよく見ていた。彼女は一応僕の幼なじみなのだ。


幼稚園の頃からずっと一緒だが、彼女が人気者になり始めた中二くらいから話さなくなった。

最初は話しかけられなくなって多少傷ついたが、僕と彼女は住む世界が違うから、と落とし前をつけられたのでもう特に思うことはない。


嘘だ。一人に慣れてしまっただけだ。多分。


青い春なんてこないこと、知っていた。

ラブコメなんて理想であり虚像でしかない。

実際、非リアに女友達なんてできやしない。業務連絡で精一杯だ。


筆記用具や教科書を用意し、思考していた頭をクールダウンする。

考えれば考えるほど自分の哀れさにため息が出る。

そうしているうちに授業前の朝はそろそろ終わりを迎えていた。


×××


友達の少ない学生の一日はあっという間に終わりを告げ、もう就寝の時間である。

楽しいことのある時間はすぐ過ぎるというけれど、何もなさ過ぎる時間も同じだ。

むしろさらに早く過ぎていくまである。


そして授業内容もあんま覚えてないのだから素晴らしい。


目を閉じると耳鳴りで脳が埋め尽くされる。親が離婚して母子家庭になっている僕だが、母はそれほど家に帰ってこないのでほぼ一人暮らしみたいなものだ。


考えごとをしているうちに意識を放棄できるのだから、寝るという行為はじつに素晴らしいものだ。


耳をすますと雨が窓を打つ音が聞こえる。先ほど降ってきたようだ。


そしてそのまま意識を放棄していく。今日も一日はあっという間だ。

おやすみ、神名優かみなゆう

また明日。


×××


『そう……だから……言ってやったんだ……ってな!……』『……ハハハ……ハハ』


「んー……?」


テレビの音が聞こえる。お笑い番組のようだ。ちなみに雨が打つ音は先程より一層強まって聞こえていた。


「んあれ……」僕テレビ消し忘れたっけ……。


異物が入ったような感触の目を擦ってベッドから出る。気怠い体を無理やり動かして、居間へ向かう。家のテレビは居間にしかない。


母さんが帰ってきたのだろうか。そうであればなんとも珍しいことである。


寝起きのトロイ目でボタンを探して、やっとのことで電気をつける。


「母さん、帰ってた…………の……⁈」


居間に置いてあるテレビ前のソファ。

そこに寝っ転がってポテチを口に運びながら腹を出して掻いているというTHEおっさんて感じの行動をしている女子。


……いや、この腰まで伸びた黒髪。まさか、彼女はカリスマ生徒会長の折鶴如…⁈


折鶴さんは声をかけられてやっと気がついたのか、ギシギシときしんだ音でも出そうなゆっくりさで身を起こす。まさに恐る恐るって感じ。そして、驚きに目を見開いていた。


……いや、こっちがその目をしたい。


「え、あの、その折鶴さんですよね」「イギィャャャーーー‼︎」「えちょまっ?!」


話しかけた瞬間に彼女は飛び起きて奇声を出して駆け出した!


いやこっちがそうしたいんだが?!


僕も急いで追いかけてみ『ドゴォォォン』ようとして雷が鳴って『ヒギャァァァーー‼︎』雷に驚いたのか即座に折鶴さんは進行方向を真逆にして抱きついてきた。

少し震えていた。


そして震えが消えると次は自分の行動に気づいたようだ。ゆっくりと僕を見上げてきた。

まるで壊れかけのロボットが見上げるみたいに動きがぎこちない。


「「…………」」


まるで僕らを嘲るように深夜のお笑い番組の観客の笑い声が居間に響いていた。








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