第2話 壊さないで、生徒会長‼︎ その2

「「…………」」


折鶴さんが抱きついてきてからはや十五分。

僕と折鶴さんは終始無言を貫いている。二人ともなかば意地になっているまである。ソファの端と端に僕と折鶴さんは座っていた。


テレビは相変わらず鬱陶しいけど今に至っては唯一の救いかもしれない。

静寂に身を包まれるとなんだかすぐ考え事をしてしまう。


「あ、あのぉ…」


折れたのは折鶴さんだった。


「はい」


問いかけに冷静に答える。

どんな事を言い出すのかわからないけど、平常心だ、平常心。そうキープマイノーマルハート‼︎


「しばらくここに居候させて頂けませんか…?」

「やっぱ無理キープできないよマイノーマルハート‼︎」


思わず頭を抱えてしまう。

本気でいってんすか?


「ねえいいっていうと思ったの?逆にすごいよそれ⁈」

「いや、だって男の子だから煩悩にまみれて許してくれるかなーみたいな」

「僕の理性舐めんなそこらのエロガキとかリア充とかと一緒にすんな‼︎」

「え違うの?」

「ねえなんなの君自分の立場わかってるかな?ねえ?」


おいおい生徒会長ってこんなキャラなのかよ⁈今までのイメージが総崩れ‼︎

こいつ才色兼備にあぐらかいて世界の男子を舐めてやがる‼︎今まで何人その毒牙にかけたんだよ⁈


「何はともあれ出ていってください‼︎迷惑です‼︎」

と僕が言うと

「そこをなんとかぁ」

と折鶴さんは甘えきった声でそう言ってくる。

ウザイキモい近い可愛いクソコイツ世界の男子の敵ダァ‼︎


「早く出てってください‼︎」


そう言いながら僕は彼女の背中を押す。

折鶴さんは「うわー」と棒読みながら身を任せている。

ドアを開けて閉め出す。


「もう入ってこないでください!」


バタッガチャ。


ふうこれで落ち着ける。

僕は寝室に戻り、布団に入る。

別に非日常なんて求めてないんだからそういうのはやめてほしい。


…………。

………………。


え、生徒会長なんて家にいなかったよー(ニコ)


×××


チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる気持ちのいい朝だ。よかった、今日も平凡だ。


……いやわかってる。昨日あんなことがあったことは記憶にちゃんと残ってる。だからこそ自分に言い聞かせるのだ。“今日も平凡だ“と。


さて今日は何を食べよっかな、まあトーストでも焼いて食べ「おはようございます神名くん」

「っす」と口の中だけで挨拶を……ん?


恐る恐る顔を上げる。きっと今僕はロボットのようにぎこちない首の上げ方なんだろう。


「おはようございます神名くん、挨拶はちゃんとしないと駄目ですよ」

「………………」


そこには居間で鎮座して、パンにバターを塗りながら朝のニュースを見ている折鶴さんがいた。何この状況。


「…………」


するとパンにバターを塗り終わったらしくパンを皿の上に置くと、「よし」と呟いてから


「あ、それじゃ私朝の挨拶活動あるから先に行くねー」


と言って逃げるように家を出ていった。


ああいい春だ。

しかしその春の景色は僕の絶叫で汚されてしまった。


×××


無事学校に着く。

今日も平凡だ、と言いたいところだが残念ながらそろそろ自分に言い聞かせるのも少し苦しくなってきた。


けど最大限の平凡を維持する努力はしよう。

下駄箱に外履きを入れて、代わりに上履きを床に「おはようございます神名くん」

「…………」


もうガン無視で行こう。しっかりシカトして、下駄箱を後にする。コイツは僕の平凡を壊す。コイツさえどうにかすれば今日もきっと平凡だ「無視ですかー?ちゃんと挨拶しないと駄目ですよ神名くん」


「…………」


おいおい注目集めてるってやめてくれ……。

てかまじでそうやって腕を僕の腕に絡めるのやめてくれ…。

ほらみんな呟いてるじゃん。『ざわざわ…』ってどこぞのカ○ジみたいな文字出てるって…。


「あいつ生徒会長とどんな関係?」「生徒会長無視するとかあり得なくない?」「羨ましいなおい……」「てかあいつ名前カミナって言うんだ…」


ほらめっちゃ叩かれてるじゃん僕…。

ってか最後のお前僕と同じクラスだよね名前知らなかったのちょっとシャボン玉メンタル破裂しそうなんだけど。


「………………」


もうやだよ……。僕の日常を返して…。

僕の平凡、壊さないで、生徒会長……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る