忍隊の年越し・正月

影宮

任務納め

「はいよ、お疲れさん!さーて、今年最後の大仕事といきますかね!」

 報告書を受け取りそう皆に声を投げた。

 年越しをする為に大掃除をさせていたのもこの報告書で片付いたことを確認して終わり。

 大掃除といっても忍隊に紛れ込んだ鼠を一掃して周囲で企むお馬鹿さんをこれまた一掃するだけ。

 だけ、といってもこれがまた骨の折れる仕事なのだ。

「十勇士が揃ったら、一気に伝えるかんね。」

 残すは海斗の帰りのみ。

 海斗が任務から戻ってきたら武雷毎年恒例の忍隊総員任務がある。

 海斗の気配を感じとり息を吸う。

「これより、武雷忍隊総員任務を開始する!壱、才造に続き霧ノ班は事前に知らせた忍の里へ向かえ!」

「は!」

「弍、頼也に続き光ノ班は例の準備にかかれ!」

「はッ!」

 そうして順に命令を受けていく。

 夜影は息継ぎさえ忘れそうな勢いだった。

 時間が迫っているのだ。

「以上!皆、終わり次第十勇士以外は年明けへ向け身を休め!これを任務納めとする!各自、死ぬな!生きて戻れ!以上!!」

「はッ!!!」

「よし、散れ!」

 号令がかかった瞬間に一斉に駆けてゆく。

 一息つく暇もなく夜影も行かなければならない。

 伊鶴は鉢巻きを締め直す。

 気合いを入れてかからなければ、と。

「伝説さん!ちょいと邪魔するよ!」

 息を切らせつ笑む夜影に虎太は振り向いた。

 この年越しは武雷のみではなく、いくつかの武家と共に越えようと主が張り切っているのだ。

 それには夜影も苦笑するしかないが、面白いと感じてしまってはいる。

「伝説級の年明けに尽力してよね!」

 頷く虎太もどこか楽しげだった。

 そこへ夜影に気付いた草然の主が顔を出して笑った。

「おお!来たか!流石、早いのぅ!」

「此方の準備は出来て御座います。そちらが整い次第、出発をお願い致します。我が主の年越し話に協力下さること心より深くお礼を申し上げたいところ。草然家様へ逸速く告げようと参りました。草然家様との初の年明けですから伝説級の良き年を迎えたいと思うておりまする。どうか、日ノ出まで武雷家にて。」

 畏まった風に、頭を丁寧に下げておく。

 それに上機嫌で頷きながら笑みを絶やさない草然の主に、虎太は小さく僅かに笑んだ。

 此処からはこの虎太との行動に出なければならない。

「今から出るつもりであったからな!丁度良いわ!」

 強く地面を踏み合図を送る。

「では、我が武雷忍隊の足並み揃え、草然家様への道を開きましょう。」

 片手でその方へ示せば出発だと声を上げ始めた。

 さらに駆けるは炎上家へ。

 伝説の忍が揃いも揃って告げに来ることには大層驚いた顔をしていた。

「流石は武雷と草然よ。良い年越しができそうだ。」

 騎馬隊が揃い皆が出発をしようとしている様子から見るに、もう要らぬ台詞は言わぬこととした。

 合図を送り、道を開かせる。

「我が武雷忍隊によりご案内致しましょう。伝説級の良き年を迎えるが為、日ノ出まで。」

「うむ!行くぞ!忍隊に続けぃ!!!」

 号令がかかった。

 目配せをし頷き合い、駆ける。

 迎える武家へ告げなくては。

 そうして全てが揃い、十勇士以外の部下の任務納めを確認した。

 あとは…。

「さて、十勇士の任務納めといきますかね。」

「こっれが一番重い仕事なんだよなぁ…今年は特に。」

 小助がそう苦笑する。

 既にやることは頭に入っているだろう。

 一度息をついて、伸びをする。

「伊鶴、鉢巻き緩んでる。最後まで気を抜かないように締めときな。」

 少し疲れが見えてきてはいたがそう言うと頷いて締め直した。

 そうするとまた気合いが入ったような顔つきになる。

「行くよ!」

 号令一つ、輝かしき日ノ出を拝む為。

 今年最後の任務は納まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る