序章「物語の始まり」

第1話 それは、宇宙で起きた本当の物語。


 青い、青い空の下。

 海辺近くの丘の上、一面に咲き乱れる向日葵ひまわりに挟まれた上り坂を、あどけない顔立ちの男の子と、女の子が登って行く。

 二人の背は大空に伸びる向日葵よりも低いが、輝く青い瞳は向日葵の花と同じほどに輝いていた。


「いそいでサミー」


 真白に近い髪を肩まで伸ばした女の子が、蜂蜜色の髪の少年を急かす。


「あのおじいちゃん、やくそくの時間を過ぎちゃうとネちゃうんだから!」

「まってよぉ、クリス!」


 息せき切って、二人は丘を駆けあがり、勾配の緩やかな坂道を登りきる。


 そこに、ぽつん、と白板で造られた簡素な一軒家があった。玄関近くのサンルーフには揺り椅子だけが据えられ、杖を抱いた老人が腰かけていた。


「あ、やっぱりいた!」

「いつもこの時間はここにいるもんね」


 揺り椅子に腰かけていた老人の顔は、日差しに隠れてよく見えないが、二人の輝くような表情を見ると、きっと子どもたちはこの老人が大好きなのだろう。椅子に座っている老人の胸はゆっくりと、規則正しく上下している。眠っているのだ。


「おじいちゃん、こんにちはー!」


 二人の元気の良い、言い換えれば遠慮のない挨拶に、老人は眠りから覚め、ゆっくりと身を起こした。


「おやおや、二人とも、よく来たね……」


 杖を床につき、身を乗り出した老人の顔が見えるよりも早く、サミーが身を乗り出した。


「カタリベのおじいちゃん、きょうのおはなしは?」

「ああ、そうだった。そうだったねぇ」


 サミーに割り込むようにして、クリスが老人の膝の上に飛び乗った。


「今日はとっておきのおはなしなんでしょ!」


 老人はクリスの輝くような銀の髪に手を当て、優しく撫でてやりながら頷いた。


「ああ、そうとも」


 老人は空を見上げた。皆の目が、青い、青い空に向けられていた。

 さて、と前置きし老人は空を抱くように両手を広げた。


「この宇宙(ソラ)で起きた、君たちの知らない本当の物語について、これから話そう」


 その物語は長い歴史の中から生まれた。


 母なる星を離れ造り上げた聖域。


 母なる星に残り築き上げた歴史。


 誰もが望まぬままに手に入れた力、そしてそれを巡り繰り広げられる争い。その試練の地割れの中で、世界が音を立てて崩れるとき。


 一体何が起こるのだろうか。


 これは、おとぎばなしであって、ウソではない、ほんとうの物語。



 Lion Heart ソラノシシ。

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