第3話 高校生活と一人暮らしとバイト
年が明け、僕たちは同じ高校を受験した。
結果はふたりとも合格。この年は、この高校を受験する生徒があまりいなくて、ラッキーなことに受験した生徒全員が合格出来た。
藍子は、この頃になると子供の頃の落ち着きのない野生児はすっかり消え去っていた。ずっと見てきた僕は、別人ではないか?と疑いたくなるほどだ。藍子は既に高校の先、大学を見据えていたのだ。あの勉強嫌いが、高校受験を意識した時から成績もどんどん上がっていった。
僕は、いつの間にか成績でも藍子にかなわなくなっていた。受験勉強を始める前までは、体育以外の全教科で僕は藍子に勝っていたはずなのに…
もともと器用なやつだったから、ちょっとコツを掴めば、こうなることは分かっていた。それでも、やはり小さい頃から勉強嫌いを見てきた僕は、心のどこかで勉強に関してはコツなど掴まないだろうと思っていたのかもしれない。
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3月には中学を卒業した僕たちは、4月から無事に高校生となった。
藍子は、昔から野生児で男子みたいなやつだったのに、顔も性格も良かった。それに加え、今は成績だっていい。
当然、高校入学と同時に複数の男子から告白されまくった。1年生の頃は、彼氏がいなかった時期はないがどれも長くは続かなかった。理由は簡単だ。藍子は、高校入学と同時に大学に行くための資金を貯めるため、バイトを始めたからだ。
そのバイトの日数が、彼氏との距離をどんどん遠くした。定期テスト期間以外は週5でバイトをし、残りの2日はお母さんのお見舞いに行くと決めていたから、彼氏ができても会う時間がほとんどなかったのだ。
お父さんは、大学に行くならお金は出してくれると言っていたらしいが、藍子はなんとなくそれを拒否したいと思っていたみたいだ。自分が稼いだお金で足りなければ、奨学金を申し込むつもりでいた。
この頃から、藍子はお父さんをアテにしなくなっていたが、だからといってお父さんが帰宅した時に思春期の女子のように〈お父さん、そばに来ないでよ!〉とか〈お父さん、臭い!!〉など拒絶はせず、相変わらず大量の洗濯物が持ち込まれると黙って洗濯をする生活だった。
会話は、ほとんどなかったが、どちらも相手を拒否しているような感じではなかった。1人暮らしといっても、生活費は毎月お父さんが置いていってくれて、藍子はその生活費で暮らしていたからバイト代はすべて貯金に回すことができていた。
下手したら、生活費の残りだって貯金に回していたくらいだ。そういうやりくりなんかもあっという間にコツを掴んで、まるで家計を預かる主婦のようなやりくり上手さを身に付けていた。
高校生活は、普段の勉強と受験勉強を同時進行しながら、お母さんのお見舞いもバイトもこなすハードな生活だったが、藍子は相変わらず誰かに対しての愚痴は漏らさなかった。
「ホントに愚痴りたくなる相手がいないのか?」
いや、僕だったら、真っ先にお父さんのことで愚痴るだろう。中学卒業前からひとりで暮らさせて、たまに帰ってきたと思えば大量の洗濯物を置いていくだけの親なんて、何を考えてるんだ?!と愚痴が止まらなくなると思う。
でも藍子の愚痴はいつだって、自分の不甲斐なさばかりだった。この時からかな?僕が藍子の精神面を心配し出したのは。僕は一人っ子だから、自分で言うのもなんだけどかなり過保護に育てられた。欲しいものはほとんど手に入っていたし、藍子が普通にやっている家事や料理だって、自慢じゃないが何ひとつできない。
自分のことだけで精一杯になることだってある僕に対して、藍子がやっていることの量と言ったら半端じゃない。僕が見るかぎり、僕の母親より家事は完璧だし、料理もうまい。その上お母さんのお見舞いに勉強だ。疲れていないはずはない。人は疲れが溜まってくると愚痴も吐き出したくなる生き物だと僕は思っていたから、藍子が一切誰かに対して愚痴らないのは本当に心配だった。
そんな僕の心配をよそに、藍子は毎日リズムよくすべてをこなす高校生活を送っていた。1年の時から、成績は常にトップ5には入っていたし、既に志望大学も決まっていたらしく、黙々と目標に向かって突っ走っていた藍子。2年生になると男子も告白しなくなった。藍子自身はそんなこと、気にもしていない様子だったが、僕は2年生になってから彼女が出来、その彼女が藍子のことをライバル視するせいで、少しずつ藍子から離れてしまった。
帰宅すれば、当たり前のように藍子の家に寄っていた頃は藍子の様子だって見ることができていた。でも、彼女ができてからはまっすぐ自宅に帰るようになり、その頃から数日藍子に会わない日も増えていった。高校が同じでもクラスは結局一度も同じにはならなかったことが、僕と藍子をどんどん離していった。
たまにふと心配になり、藍子のバイト先で食事をすることもあった。藍子はファミレスの厨房でバイトをしていたから、食事に行ったところで藍子がホールに出てくることはなかったが、ホールからチラッと見える藍子を確認して何となく〈僕はいつでも藍子を気にかけている〉と自己満足していただけかもしれない。
僕の行動なんてまったく気にしない藍子は、黙々と高校生活、バイト、お母さんのお見舞い、受験勉強をこなしていた。そして、季節は流れ、あっという間に受験シーズンへと突入していった。
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