暗黒騎士と白魔術師

@smallwolf

第1話 迎撃



 俺は暗黒騎士。

 幼少のころ、ニンゲンである俺は魔王様に拾って頂いて以来魔王様の元に仕えている。



 魔王様は何も知らない俺に色々な事を教えてくれた。ニンゲンの事、魔物と呼ばれるニンゲンだけを襲う生き物の事、ニンゲンと魔王様の率いる魔人の対立関係について。



 ニンゲンは魔人の事を

 [自分とは違う外見]

 [魔物は魔人を襲わない]

 というだけの理由で忌避し始めたという。



 そうして人間側から魔人への攻撃があった。

 魔人はそれに反抗し、人間側へと少なくない被害をもたらした。

 そのような小さな火種が重なり合って、対立関係は生まれてしまったらしい。



 今はもう歴史の闇に埋もれてしまったお話。

 でも実際にあった話だと魔王様は言っていた。

 魔王様は少し悲しそうだったけれど、日々人間の侵攻に対して対抗している。



 自分と、自分に付いてきてくれる魔人たちの為に。

 そんな魔王様の役に立ちたい。

 そう思い、俺は人間の身でありながら魔王様に仕え、今ではその守護の任に就いていた。




「暗黒騎士、シュリンガーよ……」

「は! お呼びでしょうか、魔王様」

「勇者の一派がこちらに向かってきているらしい。すまないが行ってもらえるか?」

「御意! 魔王様の命とあらば」

「すまぬな……お前には苦労をかける……ニンゲンに敵対感情を持つ同胞が多いせいでお前には単独任務ばかり押し付けてしまっている……」



「そんなことは! ……我々はニンゲンと争っているのです。仕方ないと思っています。それに、俺が戦果を上げ続ければ彼らもきっと自分を受け入れてくれるでしょう。最近では自分に話しかけてきてくれる魔人の方たちも増えてきていますし、問題ありません」



「そう言ってくれるとこちらも助かる。[ヴィネの魔剣]と[ロアの鎧]を使いこなすお前ならば勇者の撃退など容易だろう。だが、油断はするな? まず、第一に自分の命を優先してくれ。お願いだ」


 そう言って魔王様は頭を下げてきた!?


「頭をお上げください魔王様!? ニンゲンである私にそのような行いはおやめください! 部下の方々に対して示しがつきません!!」


「何を言う。我の最も信頼する部下、シュリンガーよ。お前はわれにとって戦力的な意味でも精神的な意味でもなくてはならぬ存在。そんなお前に我が死なないでくれと懇願するのがそんなにおかしい事か?」


「魔王様……」


「それにな。そう言うのを抜きにしても我はお前を息子のように思っている。種族など関係ない。我にとってたった一人の可愛い息子なのだ、お前は」


「もったいないお言葉です……俺も……魔王様を父親のように思っております。――分かりました。この剣に誓いましょう。俺、シュリンガーは魔王様の元に必ず戻ってきます。必ず……絶対にです!!」


「それを聞いて安心した。さぁ、行け、シュリンガー! 我が息子よ!!」


「はっ!」


 そうして俺は魔王様の城を発ち、勇者達が先日占拠したというデヒュールヒーズ城へと向かう。

 デヒュールヒーズ城は魔王城から十キロほど南下したところにある城だ。

 ここから魔王城までの障害はない。なんとしてもここで勇者を止めなければ……。

















 明朝



 もうそろそろデヒュールヒーズ城へ入れるというところで勇者達と思われる集団を発見する。


 勇者たちは三人組で動いていた。

 白のローブで体を覆い隠している魔術師風の人物が一人。

 黒のローブで体を覆い隠している魔術師風の人物が一人。

 最後に先頭を歩いているのが勇者だろうか? 剣と盾を持ち歩いている男が一人。

短い白髪、白の瞳、表情は豊かで何かを楽しそうに話している。


 剣や盾を持っていなければ到底勇者とは思えないただの子供のような者……。




 まぁ関係ないか。

 誰であろうがこんな所を歩いているニンゲンなど魔王様にとって妨げでしかない。

 排除する!



「止まれ!!」



 俺は彼らの前へと飛び出し静止の言葉を投げかける。




「我が名は暗黒騎士!! 偉大なる魔王様に仕える者。この先に薄汚いニンゲンを入れるわけにはいかん。おとなしく引き返すがいい」



 さて、そのまま帰るのであれば手は出さない。が、





「俺たちはその魔王を倒す為にここまで来たんだ!! 引き返せるわけがあるか!!」

「すべての元凶は魔王! 魔王を倒せば平和が訪れるんです! そちらこそそこをどいて下さい!」

「…………」




 やはり聞く耳持たない……か。

 どうでも良かったが声から判断するに白いローブのあいつは女らしいな。

 黒いローブのやつは何も喋らんので分からないが……まあいい。




「愚かな……。貴様らの命、ここで潰えることになるだろう。来い」

「言われなくても!! 行くぞカルシア、ヴァレン!」


「……」

「イエス、マスター(コクッ)」


 勇者の声に応える黒ローブ。

 だが、白ローブの方は黙ったまま、そこを動こうとしなかった。


「……カルシア? どうかしたのか?」

「ッ!? い、いえ、なんでもありません。支援はお任せください! 勇者様!!」


 カルシアと呼ばれる白ローブの女はそう言って支援魔術を勇者にかけ始める。そうか、あの女は白魔術師か。ならばもう一人は黒魔術師と言ったところだろう。編成に無駄のない。良いパーティーだ。



「ヴァレン!!」

「了解しました」



 瞬間、煙幕が周囲を包む。

 視界を奪うか――なるほど、相手にもよるが良い手だ。初撃を確実に打ち込むための一手としては悪くない。


「むっ?」


 次、正面から火球が飛んでくる。おそらく黒魔術師の魔術だろう。貧弱な魔法だ。まともに当たったところで少しやけどする程度だろう。つまり――これは俺の気を逸らすための攻撃。本命は――



「その首――貰った!!」



 背後から聞こえる勇者の声。振り向くと、必勝を確信した顔が視認できた。



 ――カァンッ



「え?」



 先ほどの勇者の必勝を確信した顔は消え去り、困惑しているのが良くわかる。まぁ無理もない。名剣と名高い勇者の剣が、俺の[ロアの鎧]に傷一つ付けることができずに弾かれたのだから。



「終わりか? ならば、次は俺の番だ」



 そう言って俺は勇者へと斬りかかる。勇者は盾で防御しようとする。勇者の盾――ここに来るまでにその情報は得ている。なんでも天使の加護を得た、最高級の硬度を持つ盾なのだとか。持っているだけで所有者の傷を治すという。だが、




「無駄だな」



 俺の[ヴィネの魔剣]はそのまま勇者の盾を割り、そのまま勇者の左腕を切り落とす。




「ぐあああああああああああああ!!!!!」



「勇者様!」




 慌てた白魔術士が勇者の元へと向かい、回復魔法を唱える。かなり優れた魔術師らしく、すぐに血は止まり、斬り飛ばされた左腕もくっついていた。


 勇者はこちらを睨んだまま動かない。治ったばかりの左腕をだらんと垂らしたまま静かにこちらを見据えていた。どうやらくっついてもすぐに動かせるわけではないらしい。



「なんで……今攻撃してこなかった?」



 勇者に問いを投げかけられる。



「お前らが立ち去るのならば殺す必要もない。今ので理解できただろう? 貴様らではこの俺に傷一つ負わせられないし、俺の攻撃を防ぐことは出来ん」



 俺は手に持つ漆黒の大剣を掲げ、


「これは魔王様から与えられた[ヴィネの魔剣]、あらゆるものも断てる。そして――」


 俺は着ている鎧を片手で叩き、


「この鎧は[ロアの鎧]、あらゆる攻撃を通さぬ。理解できたか? この俺を倒すことなど今のお前らには不可能だ。今からでも遅くはない。この場から去れ。死にたいというのならば話は別だがな」



「ちぃっ! なんなんだそのデタラメな武具は!? 仕方ない。いったん引こう。だが、俺は諦めないからな!! 必ずお前ら魔人を滅ぼしつくしてやる!!」



 そう勇者は言い残し、城を放棄して魔王城とは反対方向へと走り出す。

 黒魔術師も勇者にならい、走る。


「………………」


 だというのに、白魔術師はその場に残った。


「……なんだ? 死にたいのか?」


 白魔術師は大した攻撃魔術を使えない。単体で残るなど自殺行為にしか思えないのだが……。


「……(ペコリ)」


 白魔術師は何も言わず、ただ俺に向かって頭を下げる。そうして勇者の後を追って去っていった。


「なんだったんだ? ……まぁいい。――はぁ~~しかし、あの様子だと勇者はおそらくまた来るのだろうなーー……。仕方ない。この城で迎え撃つことにするか」



 俺は城へと入る。

 城の中には魔人たちの死体が転がっていた。おそらく先ほどの勇者にやられたのだろう。

 中には過去俺と話したことがあるやつも混じっていた。



 ……本当はあの勇者どもは皆殺しにした方がいい。

 だが魔王様は本心ではニンゲンとの争いなど望んでいない。

 特に、ニンゲンである俺が過去ニンゲンを殺した時、褒めてはくれたがその瞳には悲しみの色が漂っていた。



 だから可能な限り殺さない。

 勿論無理に突破しようとした者には容赦はしない。

 さっきもあの勇者は白魔術師が居なければあのまま出血多量で死んでいただろうしな……

 城を見て回って警報装置が生きている事を確認した俺はそのまま眠りに就いた。



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