第306話 作戦会議(1)
混沌の魔力の外側に、さらに結界を展開した状態で――カイエは『暴食の魔神』イグレド・ギャストールを、イグレドが支配するギルスバーグ帝国まで運んだ。
帝都の上空に侵入したカイエに『暴食の使徒』たちが集中砲火を浴びせるが、カイエは反撃もせずに無傷でやり過ごす。そして混沌の魔力を消し去って、結界に囚われたイグレドの姿を晒すと――冷ややかに言い放つ。
「見ての通り、『暴食の魔神』イグレド・ギャストールは俺の支配下にある。だからと言って、俺はおまえたちに何も要求するつもりはない。結界を壊したいなら好きにすれば良い……どうせ無駄だけどな。あと、このまま攻撃を続けるなら……相手になるけど?」
『暴食の魔神』すら封じ込めてた相手に敵う筈もなく――『暴食の使徒』たちはアッサリと敗北を認めた。
「何だよ、抵抗しないのか……ああ、他の魔神や神の化身に助けを求めても構わないから。そんな恥を晒して、イグレドが黙っていると思うならな」
使徒たちの思惑を見透かして、カイエは釘を刺す――イグレドを閉じ込めている事が、他の
少なくとも、イグレドを操った奴は当然気づいているだろうが――そいつが仕掛けて来るなら、勿論受けて立つし。隠れているなら……こっちから仕掛けるだけだ。
二重の結界に閉じ込められたイグレドは、憎悪の視線をカイエに向けているが――本来の力を取り戻して結界を破ろうとしないのは、カイエが一瞬で混沌の魔力を展開してイグレドを飲み込む事が出来ると解っているからであり。
仮にカイエが混沌の魔力を使わなかったとしても、制約を破ったイグレドは他の魔神や神の化身たちに抹殺されるだろう。
(破滅を覚悟して俺に抗う気はないのか……だから、イグレドは小者なんだよ)
自暴自棄になるのは何の意味もないが。今ならカイエが混沌の魔力を展開するまでの一瞬の隙を突いて、一矢報いる事が出来る可能性はあるのだ。
しかし、イグレドは動かないし、将来的にカイエに復讐するための算段を立てることも無いだろう。魔神も神の化身も大抵の奴は傲慢であり、自らの力を唯振るうだけで、
だから、カイエも対処がしやすいが――イグレドを操った奴は、そうじゃないし。同じように行動している奴が、他にもいる可能性はあるのだ。
(わざと自分の存在を教えて、もっと警戒しろって態度は気に食わないけどさ……
リンドアの四万人を殺したのは、少なくともイグレドの意志では無いから、今は晒し者にするだけで後回しにしているが――仮にも魔神くせに操られた間抜けさに対する責任は必ず取らせて、殺した事実を知りながら後悔も反省もしなかった事のツケも払わせてやる。
イグレドが自暴自棄になって結界を破る可能性は無いだろうから、カイエは魔力を補填するためにギルスバーグ帝国を定期的に訪れる必要がある。『暴食の使徒』の動きも一応は監視するつもりだから……カイエはもう一つ、仕掛けを施す事にした。
※ ※ ※ ※
翌日、ディスティの居城に『暁の光』とログナとアルメラを含めたメンバーが再び集まった。
『暁の光』とログナとアルメラ以外には、すでに『
「相手は『暴食の魔神』イグレドを操って、続けざまに二回襲撃してきた。とりあえずの対処は終わったが、正直言ってまだ何も解っていないけど……警戒すべき相手だって事は確かだな」
ブレストリア法国の首都リンドアと、『曇天の神の化身』アルベルト・ロンダルキアなに対する襲撃――実行犯である『暴食の魔神』イグレド・ギャストールは、すでにカイエによって無力化されているが。イグレドを操った者の正体は、現時点では不明だ。
しかし、やり口からして、相手は相当な実力の持ち主と考えるべきだろう――カイエたちに悟られずにリンドアの襲撃に成功した後に、実行犯のイグレドを
あの時点でアルベルトを襲撃すれば、警戒しているカイエに妨害される事くらい相手も解っていた筈だ。それでもアルベルトを襲撃したのは、イグレドが捨て駒に過ぎないからであり。『これくらいの事なら、いつでも出来る』とカイエに教えるためだ。
アルベルトを襲撃したのは相手が浅はかだからと考える事も出来るが――敵を過小評価するよりは、過大評価した方がマシだとカイエは考えている。それに、少なくともイグレドを完璧に操った能力は、非常に危険だ。
「『暴食の魔神』イグレドは操られていたのに、自分の意志で襲撃したと思い込んでいる。つまり、相手は本人にすら気づかれずに魔神を操素る能力を持っているって事で……すでに第二、第三のイグレドがいる可能性がある」
複数の神の化身や魔神たちが一斉に襲撃してきたら、同時に相手をする事は簡単ではない。それでも、制約を課したままの状態ならば対処の仕方はあるが――彼らが本来の力を取り戻してしまったら、勝敗に関係なく国一つや二つは簡単に消滅するだろう。
「操る事で強制的に制約を破らせる事が出来るなら、イグレドにも
もっと最悪な可能性もカイエは想定しているが――そこまで来ると対処というよりも
「まあ、以上が現時点で掴んでいる情報から想定できるイグレドを操った奴の話で。そいつが唯の愉快犯で、俺たちの事なんてまるで眼中に無いって可能性だってあるんだけどさ」
リンドアにあった魔力の残滓についても、カイエを明確なターゲットにして残したものではなく。自分には何でも出来るという万能感に溺れた相手が、気づく奴がいるなら掛かって来いよと、半ば悪ふざけで残した可能性もある。
そして、結局のところ、イグレドを操った相手が最終的に何をしようとしているのか――本来であれば、
「だけど、俺としては……用心を怠った間抜けになるのは嫌だからさ。出来る事は全部やっておきたいんだよ。まずは、ディスティとヴェロニカとロザリーは、配下の連中の警戒レベルを上げて。イグレドを操った奴の動きを少しでも掴んだら――僅かな可能性の話でも構わないから、俺を含めた全員に『
カイエの言葉を誰も否定しなかった――考えている事はそれぞれ違っていたが。
ローズとロザリーは、カイエの言っている事を全て理解した上で肯定する。
ディスティは全部理解した訳ではない――そこまでカイエの考え方を理解出来ていないから。しかし、それでもカイエに仇なす存在がいるのだから、全身全霊で立ち向かおうと思っていた。
ヴェロニカは『結局、歯向かって来る奴がいるんだろ? だったら容赦しねえ!』という感じで、シンプルに考えていた。
ログナとアルメラは、ヤバい状況だと興奮しながら、状況を楽しむために自分たちに何ができるか考えており。
そして、『暁の光』のメンバーたちは――話が大き過ぎて付いて行けなかった。
「アランたちはさ……何で自分たちが呼ばれた解らないって顔してるよな?」
カイエに内心を言い当てられて、アランは驚いた顔をする。
「その通りよ……カイエ、正直に言うけど。私たちじゃ、カイエの役に立てるなんて思わないんだけど」
レイナの言葉に他のメンバーもコクコクと頷く――場違い感がハンパないのだ。
「いや、役に立つとか立たないとか、そういう話じゃなくてさ……」
カイエは苦笑すると、ちょっと申し訳なさそうな顔をする。
「アランたちも俺に関わった事で……標的にされる可能性があるって、俺は考えているんだよ」
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