第265話 情報活動の後は地下迷宮


 カイエはヴェロニカたち三人の鍛錬に付き合いながら。ディスティニー配下の者たちを使って、神の化身と魔神たちの調査を始めた。


「なあ、カイエ……どうして俺の部下を使わねえんだよ?」


「なら、聞くけどさ……ヴェロニカのところに、真面まともに情報収集が出来る奴がいるのかよ?」


 ヴェロニカの元に集うような連中は、主人と同じで脳筋タイプばかりだった。勿論、カイエは先入観で言っているのではなく、実際に何人かと面談して判断したのだ。


 それに比べて、ディスティニーの配下には『魔道国』を名乗る彼女の国に相応しく、様々な分野の魔法に精通した者たちがいる。


 その中には諜報活動に適した能力を持つものも多く。移動系魔法が得意な者たちと組み合わせれば、広域での調査も十分可能だった。


「ログナとアルメラにも、そろそろ働いて貰わないとな。もっと面白いモノが見たいなら……真面目にやれよ」


 ヴェロニカとの一戦で興奮したアルメラが落ち着くまで、カイエは二人を丸一日以上結界の中に放置した。


 ちなみに食事とか諸々は、カイエが魔法で提供したから何の問題もない。


「まあ……カイエが言うのも当然だな。俺も報酬・・の分くらい、きっちり働くぜ」


「そうね……私が仕事も出来る良い女だって、カイエに再認識して貰わないと」


 ビアレス魔道国との国境を越えるときは、二人は『暁の光』をリードして活躍したのだが。


 魔神であるヴェロニカとの一戦やディスティニーを従わせる様子を間近で見られたという報酬・・に、相応しい働きをしていないと、他ならぬログナとアルメラ自身が思っていた。


「なあ、『鮮血の魔神』様……お互いがカイエの役に立つために、ちょっと相談があるんだがな」


 ヴェロニカに睨まれても怯む事なく、ログナは相談を持ち掛ける――情報収集に関してディスティニーに遅れを取ったヴェロニカに、自分たちの価値を売り込んで協力させようというのだ。


 ログナとアルメラの提案に、ヴェロニカは暫くしかめ面をしていたが――


「良いぜ、解った……俺がてめえらに協力してやるよ。だがな、無様に失敗して俺の顔に泥を縫ったら……てめえらの命は無いものと思えよ!」


「ああ、承知した……命を賭けない仕事なんて、詰まらないからな」


「ええ、『鮮血の魔神』様……私たちは必ず成功して見せるわ」


 どこまで本気で、どこまでがハッタリなのか解らないが――二人は少なくとも今の状況を楽しんでいた。


※ ※ ※ ※


 認識阻害を発動して姿を隠しながら、音速の数倍の速度で空を駆け抜ける――それからの四日間、ヴェロニカたちの鍛錬に付き合う以外は、カイエは世界中を駆け回る事で費やした。


 目的は二つ。各地に転移魔法の移動先を登録マーキングする事と、今後驚異となり得る存在を魔力で感知する事だ。


 後者の方は高速で移動しているのだから、詳細までは掴めないし。それなりの相手なら魔力を隠しているだろうから、そこまで期待してはいなかったが。大まかな戦力配分くらいは、把握する事が出来た。


 そして、四日が過ぎて――


 カイエは登録マーキングの設置を粗方終えた。しかし、ディスティニー配下の魔族や、ログナとアルメラからの報告はまだ届いていない。無論、カイエもそんなに簡単に情報が掴めるとは思っていなかった。


「まあ……調査結果については、次に来るとき・・・・・・まで持ち越しだな」


 神の化身と魔神の時間感覚は人族と大きく異なり、彼らにとっては一年が人族にとっての一日のようなものだし。『深淵の学派』がこっちの世界に来てのも、すでに数百年も前だ。だから、今さら急いだところで、大差があるとも思えない。


 それに、もし……相手の方が慌てて動いて来るなら。カイエの方は反撃する準備など初めからしている・・・・・・・・のだから、探す手間が省けると思っていた。


 だから、ローズたちに帰ると約束した時間・・・・・・・・・・までの最後半日を――カイエは自分の趣味のために使う事にした。


※ ※ ※ ※


 魔道国の首都ビクトリノから東へ馬で一日という距離に――『ラウクレナの禁書庫』と呼ばれる地下迷宮ダンジョンはあった。


 カイエに借りている黒鉄くろがねの馬車(二号)の移動速度のおかげで、わずか数時間で『ラウクレナの禁書庫』に辿り着いた『暁の光』のメンバーは、魔族の国の地下迷宮ダンジョンの攻略に勤しんでいた。


 『ラウクレナの禁書庫』は、最初の階層から中級レベルであり。『暁の光』も五日間掛けて、ようやく十階層を攻略するという辿り着いたというところだった。


 出現する怪物モンスターも、彼らが経験して来た地下迷宮ダンジョンとは一段異なり、凶悪な亜種ばかりで、中級レベルと言っても気の抜ける相手ではなかった。


 それでも区切りである十階層――階層ボスは、焔のブレスを撒き散らす三つ首の地獄の犬ケルベロスの亜種で、十メートル近い体長の魔界の犬は、全身に分厚い金属の鎧を纏っていた。


「『爆列ブラスト火球ファイヤーボール』!」


 短髪メガネの魔術士ギルが、お決まりの魔法で先制攻撃を放つと――


「ガイナ、レイナ! 一気に叩き潰すぞ! ノーラは回復に徹してくれ! トールはサポートを頼む!」


 真正面から突撃するアランとガイナ。レイナが斜めに移動しながら、精霊銀ミスリルの矢を連射する。トールは大きく迂回して、ケルベロスの背後を狙う。


 このとき――黒髪の少年が、突然飛び込んで来た。


「悪いな、おまえら……俺も参加させてくれよ」


 その姿に気づきながらも、『暁の光』は動きを止めない。


「もう……カイエ、しょうがないわね!」


 レイナが嬉しそうに笑いながら、精霊銀ミスリルの矢を連射する中――カイエは無骨な鋼の大剣二本を手にして、ケルベロスに襲い掛かる。


「アラン、ガイナ……」


「ああ、解ってる!」


「おうよ……俺たちは自分の戦い方をするまでだ!」


 カイエにとって、地下迷宮ダンジョンとは――倒した怪物モンスターがリポップする特殊な空間故に、細かい事を考えずに自由に力を振るえる場所だが。


 今日は……『暁の光』のメンバーに合わせて力を制限する。手を抜いているとか、地下迷宮ダンジョンを舐めているとか思われるかも知れなし、それが事実だと自覚しているが……


「カイエ……美味しいタイミングで、来るのはどうかと思うよ?」


 トールが悪戯っぽい笑みを浮かべる――『暁の光』と一緒に戦う事が面白いと思うのも、また事実だった。

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