第256話 閑話休題:二人の魔神の会話


 カイエとディスティニーが転移魔法で移動した先は――魔道国ビアレスの王宮。


 何故か巨大な円形のベッドが置かれた部屋の片隅で、スカイブルーの髪の少女はクマのぬいぐるみを抱き抱えていた。


「おい、ディスティニー……何でおまえは、そこまで従順なんだよ?」


 かつての敵に、カイエは文句を言うが――


「そんなの……決まってるじゃない。私カイエに嫌われたくないの……カイエに嫌われるくらいなら、死んだ方がまし」


 真顔で言う十代半ばの少女の姿に――カイエは顔を顰める。


「いや、俺に嫌われたくないとか……真面目に言ってるのか? おまえだって魔神だろう……俺に言う事をきかせたいなら、力づくで来ないのか?」


 カイエの詰問に――ディスティニーは、何故か恥ずかしそうに応える。


「それは……惚れた方の弱み。私は……カイエが大好きだから、従うしかないの」


 冗談みたいな台詞だったが――ディスティニーが本気で言っている事は、カイエにも解っていた。


「……だったら、好きにしろと言うしかないけど。俺にはおまえよりも大切な奴が、少なくとも六人いるんだけど……四人の嫁と愛人が二人。とれでも、おまえは――」


「うん……カイエが誰を好きとか、そんなの関係ない。私はカイエが好き……それ以外、何の意味もないから」


 無条件の愛――『暴風の魔神』ディスティニー・オルタニカは、そう宣言しているのだ。


 そこまで言われてしまえば……カイエも抵抗できる筈もなく。


「ああ……もう、解ったから。でも、ディスティニー……うちの嫁と愛人と……あと、レイナとアルメラも傷つけたら承知しないからな?」


「うん、解ってる……カイエは優しいから」


 満足げに微笑む『暴風の魔神』ディスティニー……彼女は自分を受けてくれるのなら、他のモノなどどうでも良いと思っていた。


 たとえそれが、カイエにとって自分よりも大切なモノであったとしても――


(最後には私が奪うから……関係ないの)


 彼女の自身の根源は――自分とカイエだけが魔神であり。他の定命の存在など……何れ消えてしまうと解っていたから。


 仮にエレノアか、アルジャルスが相手なら――彼女は徹底的に戦っただろう。


 しかし、二人がカイエの恋人にならない事は解っているし。それ以外の神の化身と魔神はカイエの敵だから……ディステニーにとって、真のライバルは存在しないのだ。


「ああ、何となく解ったよ……おまえは、自分よりも俺と一緒にいられる存在なんていないって考えてるんだよな?」


「うん……だって、私以上にカイエの事が好きな人外ひとなんて……存在しないから」


「ああ、そうかもな……でもさ、俺にとって一番大切なのは人外ひとじゃないし。最後まで一緒にいるのは……そいつらだって、俺は思っているけどな?」


 このときに見せた漆黒の瞳の輝きを――『暴風の魔神』ディスティニー・オルタニカは真の意味で理解していなかった。




 だから――彼女たち・・・・が、こちら側の世界に来たとき。ディスティニーは驚愕する事になる。


 カイエが一番大切だと言ったのが――どれほどの存在かという事に。

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