第234話 混沌の晩餐
「それじゃ、アリウスさんとルーシェさんを夕食に招待するよ……ああ、ついでだから、セリカにも飯を食わせてやる」
「ついでとか言うな! ホント、失礼極まりない奴ね!」
(カ、カイエ様……この馬鹿の面倒を、ロザリーちゃんはいつまで見れば良いんですの?)
セリカに抱き抱えられて涙目のロザリーを無視して、カイエたちは遺跡の外に出た。野外でバーベキューでもするのかと、アリウスとルーシェは軽く考えていたのだが――
カイエが混沌の魔力を上空に展開させて、コゴゴーツと効果音を鳴り響かせんばかりに舞い降りて来る巨大な黒い塔の姿に……もう驚かないと決めた筈のアリウスとルーシェの目が点になる。
「ねえ、アリウス……」
「ああ、ルーシェ……もう何も言うまい」
二人は暫く動ける気がしなかったが。他の全員が平然と塔の中に入って行くので、それに従うしかなかった。
この日の夕食は、カイエとエストがメインディッシュとデザートを担当して、他の五人も一品ずつ手伝う事になっていた。
「アリウスさん、ルーシェさん……今夜は二人がメインゲストだから、楽しんでくれよ」
アリウスとルーシェ、セリカの遺跡での日々の生活は、普通の冒険者とさして変わらないものだった。森で適当に狩りや果物を採集したりする事はあるが、基本的には朝と昼は保存食などの簡単なもので済ませて、夜は一応温かい食事を取るという程度だ。
だから、黒鉄の塔で振舞われた前菜から始まり、季節の野菜と魚料理、そして肉料理^
と続く完璧なフルコースは、それだけで久々のご馳走だが。料理しているのがエストとカイエだから……極上の味に、ルーシェの表情が綻びまくる。
「あの、カイエ君……もしかて、あなたたちは
「まあ、料理を作るのは基本的にエストだからな。
「カイエ、そんなに褒めないでくれ……私としてはカイエの料理の方が美味しいと思うよ」
「いや、俺はたまに作るだけだからさ……エストには、いつも感謝してるよ」
「カイエ……」
キッチンの中で抱き合い、唇を重ねる二人――いきなりラヴシーンが始まるのはいつもの事だが、当然ながらアリウスとルーシェは面を喰らう。
「な、なあ、カイエ君……さすがに、そういうのは……」
「まあ、良いではないか……我はもう慣れたぞ」
アリウスの言葉を遮ったのは、上機嫌のアルジャルスだった。
「此奴らにとっては、これが日常なのだ。飯も酒も旨いのだから……これ以上何の文句があろう?」
カイエが捌いた鮮魚の刺身と、希少な部位を使ったエストの肉料理、そしてアリスが特殊なルートで手に入れた極上の酒に、アルジャルスはすっかり満足していた。
神聖竜に宥められて、アリウスは黙るが――高アルコール度の酒に、アルジャルスは珍しく酔ったのか……直後に、爆弾発言をする。
「なあ、カイエよ。ローズたちと仲睦まじいのは結構な事だがな……我が貴様と一番長い付き合いだという事を、よもや忘れてはおるまいな?」
アルジャルスの目が座っている。カイエは厭な予感を覚えるが、もう遅かった。
「仮にだ……神の化身である我と、魔神である貴様が子を作ったから……それこそ史上最強になるとは思わぬか?」
この瞬間――六人の美少女と幼女たちが凍りつく。
輝くような長い髪と、磁器のように滑らかな肌――アルジャルスは人族のレベルを超えた完璧な美女であり。彼女が言うように、姉であるエレノア以外では、誰よりも長くカイエと同じ時間を過ごして来たのだ。
神の化身と魔神のカップル――アリウスとルーシェは思わず納得してしまう。
「おい、アルジャルス……冗談も大概にしておけよ? 俺とおまえはそういう関係じゃないだろう」
呆れた顔で口を挟むカイエに、アルジャルスは『ガハハ!』と豪快に笑って正面から見据える。
「ああ、そうだな……我は『光』、貴様は『混沌』という対極の力を司るモノ。雌雄を決し、貴様を捻じ伏せるまでは……子作りなど出来る筈もないか!」
おい……もっと完全に否定しろよとカイエは思っていたが。最悪な事にアルジャルスはそのまま眠ってしまった。
(おまえなあ……この空気をどうしろって言うんだ?)
カイエが
「カイエ……大丈夫よ、私は信じてるから」
「そうだな。ラクシエルを名乗るのは、私たちとエレノア姉様だけだ」
「私は全然気にしてないわよ……アルジャルスに敗ける気なんてないから」
「私だってカイエを信じるよ……ねえ、だから今夜は一緒に……」
四人はニッコリと微笑んで、優しい言葉を掛けて来る。しかし、内容を良く考えてみると、『信じる』とか『気にしない』という言葉は、本当にそう思うときは使わないだろうし。『ラクシエル』の名前を出すとか、エストの後半の発言も、ライバルに対して自分の優位性を強調ているようにも聞こえるのだが……
(これは……ロザリーちゃんも迂闊でしたの!)
(また増えたね……ホント、僕も頑張らないと!)
あからさまにアルジャルスを警戒しているロザリーとメリッサと比べて、どちらがまだマシなのだろうか……カイエはそう思いながら、絶対に復讐してやると誓った。
そんな中で――
「ロザリーちゃん……はい、あーんして! うーん、やっぱ可愛い!」
周りの空気など一切お構いなしで、キャッキャッ言いながらロザリーにデザートを食べさせているセリカと偶然目が合う。
「な、何よ、あんた……文句があるなら言いなさいよ!」
セリカは嫌そうな顔をして、一気に警戒心をマックスにするが。
「いや、そうじゃなくてさ……(何も考えていない馬鹿な)おまえが、(精神的に疲れているから)俺には天使に見えるよ」
色々と面倒になって言葉を省略した発言が――まさか新たな
「な……馬鹿じゃないの!」
初めて褒められたと思ったセリカの顔が、真っ赤になる。
ここに来て、カイエもさすがに自分の失言に気づくが――もはや、後の祭りだった。
「「「「「「……カイエ(様)!」」」」」」
今何を言っても意味がないよなと、カイエは乾いた笑いを浮かべた。
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