第235話 カイエの答え


 それぞれが色々と納得できない思いを抱きながら、夕食会は終了した。


 アリウスとルーシェは食事の後に黒鉄の塔の大浴場と、客室のふかふかのベッドと堪能する。


「ねえ、アリウス……もしかして、ローズたちは今頃……」


「ルーシェ、言うな……俺はもう何も考えたくない!」


 二人の想像は半分くらい当たっており、この夜カイエは色々と大変な事になったのだが――書けないので省略。


※ ※ ※ ※


 翌日の午前中は、カイエとエストとアルジャルスの三人が異世界への扉を開く魔法装置の調査を進める傍ら。他の五人はそれぞれ他にやる事があると、アルジャルスとセリカがカイエの傍にいる事を不満に思いながらも先に引き上げる。


 当のアルジャルスは、昨日の発言など完全に忘れている様子で。ふむふむと頷きながら、魔法装置を調べている。


 セリカの方も相変わらずカイエに邪険に扱われて、悪口の応酬をするばかりで。ロザリーが引き上げてしまった事の方が、よほど重大事項のようだった。


「うう……ロザリーちゃん……」


「いや、おまえ勘違いしてるだろ? 俺はもう暫く調査を続けるから、黒鉄の塔は森に設置したままだ。だから今夜も、ロザリーはここに帰って来るんだよ」


 本当の事を言えば、カイエが毎日転移魔法で通えば良いだけの話だがら。黒鉄の塔を遺跡の傍に設置しておく必要などないのだが。アルジャルスとセリカに対する身の潔白を証明するためにも、暫くお互い顔を合わせていた方が良いと思ったのだ。


 あとついでに言えば……ロザリーには悪いが、セリカの面倒をもう暫く見て貰おうという企みでもあった。

 フラグを立てる気などサラサラないが、カイエもセリカが悪い奴ではないと思っているので。少しくらいは面倒を見てやろうと、ただそれだけの事だ。


 カイエはそんな風に考えていたのだが――


「カイエ……我ももう飽きたから帰る」


 エストが午後は別の用事があるからと、立ち去ろうとすると。アルジャルスも、こんなことを言い出した。


「アルジャルス、おまえも……本当に自由な奴だよな」


「魔法装置については我も門外漢だからな。珍しいものがあると貴様が言うから、見に来ただけだ。本気で調査をするなら、貴様とエストが適任だろう」


「いや、そうだけど……解った。地下迷宮ダンジョンまで送ってやるよ」


 神聖竜であるアルジャルスは普通の転移魔法では移動出来ないから、来るときもカイエがオリジナルの魔法を使ったのだ。


「いや、それには及ばぬ……我が本気で飛べば、大陸横断などさして時間は掛からぬ」


「だけどさ、転移魔法の方が早いだろう?」


「おい、我が要らぬと言っておるのだ……」


 アルジャルスの態度に、カイエは他に何か目的があると気づいたので。


「解った……アルジャルス。じゃあ、またな」


「うむ……食事会にはまた呼んでくれ」


 本来の竜の姿に戻て、颯爽と飛び立つアルジャルスに、アリウスとルーシェの目がまた点になったり。


「ならば、私も行くとしようか。カイエ……」


 転移魔法を発動する直前、カイエを抱きしめて口づけを交わすエストに。いちいちラヴシーンするなと、心の中で文句を言うアリウスという一幕があった。


※ ※ ※ ※


 それからカイエも何度か、別件で遺跡を離れることがあったが。二週間もすると、魔法装置の調査も終了した。


「カイエにしては、意外と時間が掛かったな」


「まあ、継ぎ接ぎだらけで創りが悪いかったからな。損耗が激しかったり、余りにも非効率な部品パーツを交換して、実験まで一通り終わらせたんだよ」


 その日の夜も、アリウスたちを含むアルジャルス以外のメンバーは、黒鉄の塔のダイニングキッチンで一緒に夕食を取っていた。


 この二週間の間に、ロザリーはセリカのあしらい方を覚えて、二人の関係は一方的な猫可愛がりから、年の離れた友達という感じに変化している。ロザリーが我慢しているのは丸解りだが、それでも無条件の好意を向けて来るセリカを多少は受け入れたようだ。


 アリウスとルーシェも、カイエたちの関係を達観したようで。最近では『孫の顔がいつみ見られるか』などと小声で話しているが……面倒なので、カイエとローズは気づかない振りをしていた。


 ちなみに予定では、アリウスたちは補給のために一度遺跡を離れるつもりだったが。食事と寝床という快適な生活をカイエが用意したから、その必要がなくなった。


 元々の目的であるセリカの鍛錬は、相変わらずほとんど成果がなかったが。カイエが片手間に造った武器のおかげで、セリカも一応金属の竜を仕留められるようになった。


「それで……あの魔法装置は、本当に異世界への扉を開く事が出来るのか? 私もそれなりに装置について調べたから、理論上は出来るとは思うが」


 魔法装置の原理というレベルまで理解できるのは、カイエとエストだけだが。異世界へ移動するというファンタジックな内容に、セリカ以外・・・・・は耳を傾けていた。


「ああ、実際に試した・・・・・・からな」


「確か、セリカが機関部品エンジンなんだろう? 彼女にも実験に協力して貰ったのか?」


 エストの発言に、皆の注目がセリカに集まるが――


「……ほへ? な、何なのよ? 私は知らないからね!」


 いきなり注目されて、顔を赤くするセリカに。カイエは意地の悪い笑みを浮かべる。


「まあ……セリカはもう用済みだから、協力して貰う必要なんてないよ」


「用済みとか言うな! ホント、失礼な奴よね!」


「いや、まあ……おまえはおまえだから、好きに生きろって事だよ」


「はあー? 何言ってるのよ、馬鹿じゃないの!」


 カイエの真意に皆気がついていたが――それぞれの理由から突っ込まなかった。


「そもそも地脈の魔力なんて、俺が発動するには必要ないからな」


「まあ、そういう事だろうな……それで、わざわざ実験までしたんだ。カイエ……この魔法装置を使うつもりなのか?」


 再び皆が注目する中――カイエは面白がるように笑う。

 漆黒の瞳は、遥か彼方にある何かを見据えていた。


「ああ……俺は異世界に行って来るよ。神の化身と魔神たちが、何を考えているのか確かめるためにね」

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