第192話 カイエの企み(1)

※すみません、加筆修正したら長くなりましたので……分割します。ご容赦ください※


 次の日、カイエたちは冒険者ギルドに向かった――主な目的は、地下迷宮ダンジョンに入る許可を貰うためだ。

 一部の例外はあるが、現存する地下迷宮ダンジョンの大半は国が所有しており。冒険者ギルドは、その管理を請け負っている。


 常時三十度を超える気温のせいか、レニング島にある冒険者ギルドの建物は、とても冒険者ギルドとは思えない開放的な作りだった。

 入口の扉や窓は開け放たれており。建物からはみ出すように作られた大きな軒下には、まるでオープンカフェのようにテーブルと椅子が並べられている、


「ホントに冒険者ギルドかよ……って感じだな?」


 冒険者たちもラフな格好で、鎧など着ておらず。それが余計に、開放的なイメージを醸し出していた。

 カイエたちもいつも通りに・・・・・、リゾート気分たっぷりの服装でやって来たのだが。周りも似たようなものだから、あまり違和感がない。


 真っ直ぐに受付のカウンターまで行って、冒険者プレートを見せると――赤いフレームの眼鏡女子職員のリナが、目を丸くする。


「……す、凄い! 皆さん白金等級プラチナレベルなんですね! カイエさんに……ローズさん、エストさん、アリスさん、エマさん? え、もしかして……本物の勇者パーティーの方とか?」


 勇者パーティーのメンバーが、わざわざ冒険者になる理由などある筈も無く。リナは『お約束』として、冗談交じりに言っただけだった。


 カイエたちにしても、これまでは勇者バレすると面倒だからと。敢えて勇者パーティーの名前を騙っているなどと適当な事を言って誤魔化して来たが――今回は違った。


「ええ、そうよ……私は勇者ローゼリッタ・リヒテンバーグ。エストとアリスとエマも、本物の勇者パーティーのメンバーだわ!」


 ローズが高らかな声で宣言すると、『え……マジで本物?』と周りの冒険者たち一斉に視線を集める。


 彼らの視線を意識しながら――ローズは笑みを浮かべる。


「そして、彼女たち……そこにいるロザリーとメリッサは、私たちの新しい仲間よ」


 彼女が促した先には、ゴスロリ幼女とギリギリ美少女――本来の魔族の姿を堂々と晒しているメリッサに、否が応でも注目が集まった。


「あの失礼ですが……そちらの方は、魔族ですよね? まさか勇者パーティーに……魔族が加わったという事ですか?」


 皆の気持ちを代弁するようなリナの台詞に。


「その通りよ……彼女はメリッサ・メルヴィン。魔族の国ガルナッシュ連邦国の第一氏族長の長女で、私たちの大切な仲間だわ!」


 ローズが再び宣言すると――驚愕の声が湧き上がる。


「その魔族の女が……勇者パーティーの一員だって?」


「嘘だろ、魔族如きが……」


 ロマリア王国は魔族を受け入れると公言している国であり、街中で魔族を見掛ける事も珍しくない。

 しかし、実際には魔族に対する差別意識が根強く残っており。彼らの地位は総じて低く、決して人族と同等に扱われてはいなかった。


(全く……予想通りの反応だよな?)


 カイエたちはレニング島を訪れて、それを肌で感じたから――一石投じようと言うのだ。


(さあ……一気に、畳み掛けるぞ!)


 カイエが目配せすると……彼女たちは動き出す。


「皆さん、こんにちわ。僕は魔族だけど……君たちと違うのはそれだけで。他は何も変わらないって思ってるよ」


 まるで周りの敵意など気にしないという感じで、メリッサは自然な笑みを浮かべる。

 その魅力的な笑顔に――間近にいた数人が篭絡されるが。大半の冒険者は、納得などしていなかった。


「魔族なんかをパーティーに加えたら……勇者様の名前が傷つくだろう!」


「そうですよ、ローズ様! 魔王の手先である魔族なんて、すぐに追い出すべきです!」

「ほう……ロマリア王国の冒険者が。魔族だというだけで、メリッサを否定するとはね?」


 わざと煽るようにエストが言うと、文句を言っていた冒険者たちが黙る。


「本当ね……魔族が私たちの仲間になったら、何か問題でもあるの?」


 アリスは意地の悪い笑みを浮かべながら、冒険者たちを見渡した。


「文句なんて……ある筈ないよね? だって、もしそんなことを言うなら……ロマリアが魔族を受け入れるって言葉が、嘘になるから」


 エマがニッコリと笑う――冒険者たちは、もう何も言い返せなかった。


「という訳で……みんな、解ってくれたよな? ちなみに俺も『混じり者』だけど、人族とか魔族とか、そんなことには興味が無いし。誰が何て言おうと、メリッサは俺たちの仲間なんだよ」


 カイエが締め括ると、冒険者たちは『誰だ、こいつ?』という感じで一瞬だけ不快感を顕わにするが――彼が放つ圧倒的な存在感に、思わず気圧されてしまう。


「おまえたちも、色々と言いたいことはあるだろうけどさ。文句なら全部、俺に言えよ……こいつら全員、俺の女だからさ」


 その言葉に引き寄せられるかのように――ローズたち四人が前後左右から密着して。五人と寄り添うように、メリッサが少し恥ずかしそうに身を寄せる。

 彼女たちの幸せそうな表情が……『カイエの女』であることを如実に物語っていた。


「どうだ……羨ましいだろう?」


 呆気にとられる冒険者たちに、カイエは悪戯っぽく笑う。


「まあ、モテなくて可哀そうなおまえたちは……俺が奢るから。浴びるほどヤケ酒でも飲んでくれよ」


 言葉は嫌味以外の何物でもなかったが――余りにも堂々としているせいなのか、カイエが言うと不思議と不快感を感じさせなかった。


「ほら、ボサっとしてるなよ? このギルドでも酒ぐらい出すんだろう? ここにいる全員に、飲みたいだけ酒を飲ませてくれ」


 そう言ってカイエがカウンターに金貨を山積みすると、


「は、はい……解りました!」


 事の成り行きを呆然と眺めていたリナたち職員が、慌てて動き出す。

 振舞われる酒に、最初は戸惑っていた冒険者たちも、


「何だよ……俺の酒が飲めないって言うのか?」


 絡むというよりも、自然に懐に飛び込んで来るカイエに、いつの間にか場の空気が絆されていた。


「メリッサさん……さっきは申し訳なかった。魔族だからとか、失礼なことを言って……」


「うん、良いよ全然。僕は気にしてないからさ」


「俺は気にしてるからな……せいぜい、反省しろよ」


 冗談交じりのカイエの台詞に『勘弁してくださいよ』と冒険者が苦く笑う。


 こんな風に打ち解ける者も結構いたが――全員が全員という筈もなく。見立たない位置から、今もメリッサを睨んでいる者たちも、決して少なくない。


 まあ今日のところは、こんなモノだろうと。カイエは冒険者たちから離れて、再びカウンターに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る