第191話 寄り道とバカンス


 今回は、あまり時間を掛けずにサクッと行くつもりだったので。目的地に一番近い登録地点マーキングポイントまでエストの転移魔法を使って。そこから飛行魔法で移動することにした。


「あれって……海賊船?」


 二時間ほど海の上を高速移動していると。交易船が使う航路から大きく外れた海域を航行している帆船を発見する。

 商船に偽装してはいるが――上空から見ると、船上に設置してある多数の超大型弩バリスタとか投石器とか。どう考えても商いをするには過剰武装なのがモロバレだった。


「どこかの海軍の偽装軍艦って可能性もあるし。まあ、海賊船だとしてもさ。いちいち相手をする事も無いだろ……って、もう手遅れか?」


 あいつらなら仕方ないかと、カイエが思わず笑みを漏らしたときには――ローズとエマは、すでに偽装船に向かって突進していた。


 突然、空を駆け抜けて来た二人の少女に、船員たちが何か叫びながらクロスボウを乱射する。今日はリゾート気分だったから、二人は鎧など着ておらず。武器も収納庫ストレージに仕舞ったままだったが。飛行魔法で急襲したのだから、反撃されても仕方が無いだろう。


 クロスボウの矢を全て避けて、船上に降り立ったローズとエマを、船員たちが取り囲む。


「おまえら……魔法使いか? ふざけた真似をして……生きて帰れると思うなよ!」


 曲刀を構える口髭の男が、他の船員たちに指示しながら、にじり寄って来る。魔法を警戒してはいるが、距離さえ詰めれば勝てると思っている感じだ。


「あなたたちは、海軍? それとも、海賊? 海賊だったら容赦しないわよ」


「そうだね。海軍の人だったら、申し訳ないけど……君たち、そんな雰囲気じゃないよね?」


 ローズはノースリーブのワンピースの上に、レースのロングガウンを羽織っており。エマはニットのタンクトップにスリムパンツと、今日はボーイッシュな格好だが。いずれにしても、戦闘とは無縁なスタイルで――剣の間合いまで詰めた男は、勝利を確信してニヤリと笑う。


「俺たちが海賊だったら……どうしようって言うんだよ!」


 男が切り掛かった瞬間。当然ながら、勝負はついていた。


 コンマ一秒で、二人は収納庫ストレージから光と金色の剣を取り出すと同時に。殺傷力を弱めるための魔法の壁を纏わせると――二つの薙ぎ払いに、海賊たちは高々と宙に舞い上がり。そのまま、真っ逆さまに海に落ちる。


 男たちの汚い悲鳴の後に、ドボトボトボと響く水音……船内にいた残りの海賊たちが飛び出してきたのは、ちょうどそのタイミングだった。


「まだ抵抗するの? だったら、相手になるけど?」


「これで終わりだとか……私は全然物足りないよ」


 ニッコリと笑って、剣を構える二人の美少女と、溺れて助けを求める仲間たちの声――何が起こったのか、海賊たちには理解できなかったが……


「ローズさんも、エマさんも……あんまり遠くまで、飛ばさないで欲しいかしら。回収するのが面倒なのよ」


 空から飛来したゴスロリ幼女が、十数体の銀色の悪魔シルヴァンデーモンを召喚して、海に堕ちた海賊たちの回収を始めると――悪夢が現実になったことを、ようやく悟った。




 海賊たちはエストが魔法で拘束して、船の方は錨を降ろしてその場で停泊させた。

 あとは目的地に着いたら、現地の海軍に通報して回収して貰うことにする。


「海軍が来るまで、まあ数日ってとこね。最低限の水と食料だけは残してあげるから、後は戦利品として貰うけど……文句は無いわよね?」


 当然の権利だと主張するアリスに、海賊たちが抵抗できる筈もなく。大して価値のある積み荷は無かったが、根こそぎ奪ってカイエの収納庫ストレージに仕舞う――現金化すれば、今回の旅費の足しくらいにはなるだろう。


「何て言うか……みんな手慣れていると言うか、鮮やかだよね? 海賊を制圧するまでは、まだ解るけど。後始末まで完璧なんて……僕には真似できないよ」


 メリッサは驚きが半分、呆れが半分という感じで呟くと、


「何を言ってるのかしら……メリッサも、すぐに慣れるのよ。それよりも無駄口を叩く暇があったら、少しは手伝ったらどうかしら?」


 ロザリーにジト目を向けられて――今さらながら、自分が何もせずに傍観していたことに気づく。


「う……確かにそうだね、ゴメン。次からは、僕も頑張るよ!」


「いや、こんなの過剰防衛みたいなもんだし。無理に付き合う必要なんて無いからな」


 特攻少女が三人に増えてもなと……間違った方向で頑張りそうなメリッサに、カイエは苦笑する。


「でも、カイエ……僕だって、みんなの役に立ちたいよ」


「ああ、そうだな。おまえの気持ちは解ったからさ……そろそろ寄り道は終わりにして、目的地に向かうか。せっかく遊びに来たんだから……メリッサも一緒に楽しもうよ?」


 しれっと爽やかに笑うカイエに――五人の美少女と幼女はノックアウトされた。


※ ※ ※ ※


 常夏の島レニングは、聖王国から南に四千キロほどの場所にあり――ロマリア王国とい七つの島を領有する小国に属している。


 大陸から距離の離れた島国が栄えているのは、南国の果実フルーツが貴族たちに珍重されている事と……この島に珍しい地下迷宮ダンジョンがある事が理由だった。


「とりあえず、今夜は現地の高級宿屋ホテルに泊まるからな。黒鉄の塔だと、周りの景色にそぐわなくて無粋だろ?」


 南の島の白い街並みに、黒一色の塔が似合う筈もなく。『えー! 塔に泊まった方が涼しくて快適だよ!』というエマの文句を却下して、高級宿屋ホテルのスイートルームを確保する。


 しかし、結局……気温と湿度を調整するマジックアイテムを、部屋に大量に持ち込んだのだから。


「何だかんだ言って……カイエはエマに甘いのよ!」


 と、ローズ、エスト、アリスの三人には文句を言われたが。


「うん……やっぱりカイエは優しいね!」


 満面の笑みを浮かべるエマに――まあ、仕方ないかと諦めることにする。


 それから七人で午後のビーチに繰り出して、初日はバカンス気分を満喫した。


 鮮やかな色のビキニ姿のローズとエマ。黒い露出度の高い水着で主張するアリスと、せっかく新調したスタイルを強調するビキニを、上着とパレオで隠すエスト……


「あの……カイエ?  僕のは……おかしく無いかな?」


 初めての水着に――恥ずかしそうな顔をするメリッサは新鮮で。豹柄のヘソ出しスタイルは……実は隠れ巨乳二号の彼女が着ると、破壊力抜群だった。


 もっとも……黒鉄の塔の大浴場で、カイエは確認済みだったが。


「奇麗と言うか、可愛いと言うか……メリッサ、良く似合ってるよ」


 ちょっと小聡明あざとい感じだけどなと、内心で思いながら。カイエは全然照れもせずに真顔で褒める。


「あ、ありがとう……」


 頬を染めるメリッサの破壊力はさらに増して――ロマリア王国は、比較的魔族に寛容な国なので。彼女は変化の指輪を外しており、魔族であることがモロバレなのだが……周りの男たちも、思わず見惚れていた。


「カイエ! メリッサも良いけど……こっちも見てよ!」


「そうそう、カイエ! もう一人……可愛い子がいるよ!」


「ロ、ローズさんもエマさんも……止めて欲しいですの……」


 ローズとエマに引っ張られて来たロザリーは、恥ずかしそうに――何故か着ている〇クール水着を見せる。


「ああ、ロザリー。似合ってる……おまえも可愛いな」


 カイエは優しく笑みを浮かべる。


「ひゃ……そ、そんな……カイエ様……」


 その一言で、ロザリーは沸騰して――


(や、やられた……僕の負けだ……)


 メリッサは、得体の知れない敗北感を味わっていた。


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