第152話 闘技場閉幕
その後もメリッサは、エマ、アリス、ローズ、カイエの四人と順番に試合を行い――どの試合も、手も足も出ずに瞬殺された。
全ての試合が終わって、
「メリッサ、おまえってさ……ホント、良い根性してるよな」
これは『良い意味』で言っているのであり――カイエは面白がるように笑っていた。
メリッサと四人の実力差は、当然ながら歴然としており、彼らの動きを捉えることすら出来なかったが――彼女は最後まで諦めるでも、自暴自棄になるでもなく、全力で立ち向かって来たのだ。
勝算など無いのだから、無謀なだけと言えばそれまでだが――大抵の者なら、最初にロザリーに負けた時点で、精神をへし折られていただろう。
「ああ……今の僕には、頑張ることしか出来ないからね。でも、お陰で……ほんの少しだけど、何かを掴めた気がするよ」
大衆の面前で無様な敗北を繰り返した
世界の広さを知らずに、無意識に自惚れていた過去よりも、敗者となって現実を知った今の方が、ずっと価値があるとメリッサは本気で思う。
「なあ、メリッサ……強くなるために何でもするくらいの覚悟があるなら、うちの模擬戦に参加してみないか?」
カイエに誘われても――こんな展開など全く予想していなかったメリッサは、何を言われているのか、理解できなかった。
「えっと、それって……」
「だからさ……鍛えてやるとか、そんな偉そうなことを言うつもりはないけど。おまえに戦い方を教えてやるから、あとは俺たちとの模擬戦で経験を積んで、勝手に強くなれってことだよ」
「誘ってくれるのは、凄く嬉しいけど……僕なんかが、良いのかい? 君たちにとっては、足手まといでしかないだろう?」
「別に、おまえの事ばかりに
カイエが視線を向けると――
「あんたねえ……結局、フラグを立ててるじゃないの?」
アリスは呆れた顔をする。
「でも、まあ……あれだけボコボコにされても、自分から立ち上がろうとする子を、私たちは止めたりしないわよ。ねえ……みんな?」
「うん! 私は大賛成だよ。メリッサ、どうせやるなら、徹底的にやろうね」
「そうね。どうすれば勝てるかを必死に考えながら、自分よりも強い相手と戦い続ければ、必ず強くなれるわよ。メリッサが本気で頑張るなら、私も応援するわ」
エマとローズはニッコリと笑って、メリッサに手を差し伸べる。
「でも、メリッサ……うちは恋愛禁止だからね。その事だけは、肝に銘じておいて」
「あ、ああ……解ったよ」
しれっと付け加えるローズに、イマイチ意図が解っていないメリッサ。
エスト、アリス、エマの三人は――どの口が言うのかと思っていたが、その方が安心だからと、敢えて突っ込まない事にする。
「君たちの強さにすら気づかずに、愚かで無礼に振舞った僕を……許してくれると言うのか?」
「確かに……洞察力に欠けていた点は褒められたモノでは無い。そのせいで周りが見えていなかった事も、しっかり反省すべきだが……それでも、今のメリッサが嫌な奴だなんて、私たちは誰も思っていないよ」
エストは苦笑するが――その笑みは何処か優しげだった。
「真摯に強くなろうとする者を、私たちは拒んだりしない。だけど……鍛練でも模擬戦でも、うちのみんなは遠慮はしないから、覚悟しておいてくれ。ようこそ、メリッサ……私は歓迎するよ」
「み、みんな……ありがとう。あ、あれ? なんで……」
メリッサの頬を伝わって――温かいモノが零れ落ちる。
嬉しくて涙を流したのも、彼女には初めての経験だった。
「よし、メリッサの参戦は決まりって事で……ロザリーも、文句は無いんだよな?」
カイエが話を振ると、ロザリーはギクリとして、
「あ、当たり前ですの……ロザリーちゃんは、初めから大賛成ですの!」
などと白々しい台詞を吐きながら――心の闇の中で舌打ちする。
(また……余計な奴が入って来たのよ!)
ロザリーにとってメリッサの存在は、『邪魔者』以外の何者でもないのだ。
自分の
そして、あわよくば秘密や弱点を掴んで、自分に屈辱を味あわせたカイエに復讐したい――それがロザリーの野望だった。
だから、メリッサなどという弱者の相手をする暇があるなら、もっと高いレベルの活動に集中して、ロザリーの役に立つような技術や情報に触れる機会を増やして貰いたい――
などという事を、ロザリーは思っていたが……そんなモノは建前に過ぎなかった。
結局のところ、本音を言ってしまえば――カイエたちが自分以外を構うことが、面白く無いだけなのだ。
「へえー、そうか……ホントに良いんだな?」
カイエは全部解っていながら――いや、解っているからこそ、意地の悪い顔で念押しする。
「も、勿論ですのよ……ロ、ロザリーちゃんだって、頑張ってる人は嫌いじゃないのよ!」
あ、これは完全にバレてるのよ――ロザリーは冷や汗を掻きながら、そう宣言した。
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