第127話 作戦会議
「まあ、冗談はこれくらいにして……そろそろ始めようか? ロザリー、おまえには魔族の思惑を掴んでくれって頼んでおいたけど。何処まで解ってるんだよ?」
ローズたちにジト目を向けられながら――カイエはしれっと話を擦り替えた。
「その件なら、潜伏能力の高いロザリーちゃんの下僕に情報収集させたのよ。魔族たちはタリオ村を占拠して、周辺地域を支配する足掛かりにつもりですの」
ロザリーの調査によると――森林地帯に潜伏している魔族の残党の数は五百余りで、支配下にある
この数は村を襲撃するにしては大規模過ぎるが、聖王国自体と戦うには余りにも少ない。
村人を人質に取ってタリオ村を占拠すれば、王国側も簡単には手を出せないだろうと魔族たちは考えたのだろうが――
「それでも、周辺地域を支配するって……聖王国が強硬手段に出る可能性は十分あるわよね?」
アリスが真面目な顔で口を挟んで来る。
「嫌な言い方になるけど……村一つ分の人の命と侵略者の排除。どちらを選ぶかと問われたら、後者だと応える貴族や王族は少なくないと思うわよ」
それくらい魔族だって解っているだろうに――村を襲撃する彼らの判断が、アリスには余りにも軽はずみなモノに思えた。
しかし、ロザリーは……アリスの疑問に対する答えを用意していた。
「その事ですけど……アリスさん。魔族たちは、聖王国が強硬手段に出ないと考えているみたいですの。相手は聖騎士だから、人質の命を優先するだろうって言っていましたわ」
普通の貴族であれば、アリスの言うような行動に出る確率は低くないが――ここはローウェル聖騎士伯領であり、領主は聖騎士団地長エリザベス・ローウェル。
光の神に仕える聖騎士団が、神の信者である領民を犠牲にするなどあり得なかった。
「いや、それを見越しての行動ってなら、奴らのやることに説明は付くけどさ……魔族のくせに、聖王国の事情に詳し過ぎる気がするけどな?」
カイエは疑わしそうな顔をする。
そもそも聖王国は魔族に対して排他的な国であり、王国内に魔族は殆どいない。
そして第六次魔王討伐戦争――つまりは、ローズたちが魔王を滅ぼした戦いに於いても、聖王国は魔族の侵略を一切受けていないのだ。
つまりは、魔族が聖王国の事情に精通している可能性は低い。
勿論、情報を収集する手段など幾らでもあるが……辺境に潜伏している魔族の残党は、魔族であるという理由で情報を収集することは難しいのだ。
そんな魔族たちが、相手が聖騎士だからと見越して行動に出るなど――疑わしいと
カイエは思っていた。
そんなカイエの問い掛けに――アリスはニッコリと笑って答える。
「私もカイエと同じ意見だけど……それよりも、ロザリー。あんたねえ……そこまで解っているなら、最初から全部言いなさいよ!」
アリスに冷ややかな視線を向けられて――ロザリーは自分が仕出かしたことを悟る。
「ご、ごめんなさいですの、アリスさん! 今度からカイエ様よりも先に、アリスさんに報告しますわ!」
「おい、ロザリー……」
「いいえ、何も間違ってないわよ……ねえ、カイエ? 私が一番に知るべきだって、あんたも思うでしょう?」
アリスに迫られて――カイエは黙った。
それを見たロザリーは……パーティー・カーストに於いて、自分の判断が間違っていないことを確信する。
(アリス様って……呼ぶ日も近いかしら?)
そんなロザリーの思惑に、カイエも気づいていたが――これ以上、話を蒸し返すのも面倒だからと、敢えて
「まあ、ロザリーの事は、アリスの好きにしてくれよ。それよりも話を戻すけど……魔族が敵対行動に出るって事は解ったけどさ。色々と疑問が残るから、俺が直接会って話を訊いて来るよ」
「えっと……カイエは、誰と話をするつもりなんだ? タリオ村の人とは、会うことになるだろうが……」
エストの疑問も最もだった。今の話の流れの中に、カイエが話をすべき相手など――
「だからさ……俺が魔族の残党に直接会って、話を訊いて来るって言ってるんだよ」
しかし、カイエはしれっと斜め上の応えを言う。
「え……」
エストは言葉を失った。すでに敵対行動を開始した魔族に会って話をするなど、普通に考えれば、あり得ない話だが――
「まあ……カイエなんだから、そのくらい言うと思っていたわよ」
「でも、一人で行くとか言わないわよね? 私は……カイエとずっと、一緒にいたいから」
「うん、そうだね……ねえ、カイエー……私も絶対、一緒に行くからね!」
他の三人は当然という感じで、いつの間にかカイエに密着していた。
「みんな……それはズルいだろう! 私だって……みんなと一緒に行くからな!」
カイエの胸に飛び込んでいくエスト見ながら――
(……ホント、この人たちは何を考えているか、良く解らないかしら……でも、ちょっと……)
頬を微かに染めて、ロザリーがモジモジする一方――
(……えーと。私の存在意義って……何かしら?)
ロザリーの思惑通り(?)に、完全に忘れ去られた形のアイシャは――暗黒のオーラを纏っていた。
続く――
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