第77話 それぞれの一ヶ月
「じゃあ……そろそろ行くわね。私はあんたと違って、色々と忙しいのよ」
そう言ってエレノアは、先に帰ってしまったが――帰る直前に、ローズたち四人それぞれに指輪を渡した。
「そんなに大したものじゃないけど……カイエと一緒に居てくたことへのお礼よ。この指輪には私の魔力の欠片が入っているから……『
「それって……」
カイエは疑わしそうな顔で、ちょっと貸してみろとローズから指輪を借りると――『解析(アナライズ)』の魔法を発動させた。
「……一応、嵌めた奴の意思で発動する仕掛けだな。自動発動して、エレノアねえさんに思考が駄々洩れになるかと思ったよ」
「あのねえ……当たり前でしょ! 私は、そんな悪趣味じゃないわよ」
エレノアは顔を顰めて舌を出すが――本当は、直前までそうするつもりだったのだが、カイエにバレると面倒だからと、ギリギリで止めたのだ。
「こんな風にカイエに頭に来たときは、私に告げ口してね。あとは……本当に何か困ったことがあったら絶対に教えて。私が力になるから」
そう言って、悪戯っぽく片目を瞑る。
ローズたちは勇者パーティーだし、カイエも一緒にいるのだから。そうそう困ることなど無いだろうが――カイエの姉であるエレノアが味方になってくれる事は、色々な意味で心強い。
「エレノアさん、ありがとうございます……」
ローズたちはそれぞれ礼を言って――エレノアと別れた。
※ ※ ※ ※
それから丸一ヶ月――カイエは船の製作を、ローズたち四人は
「どうせ作るなら……思いっきり趣味に走ろうと思うんだけどさ。何か欲しい装備や施設があったら、どんどん言ってくれよ?」
船の設計に入る前に――カイエは四人にそう伝えた。無駄に凝ることが好きな彼は、本当に大抵のモノなら作るつもりでいた。
「私は、やっぱり大きいお風呂と……カイエとゆっくり過ごせる部屋かな」
ローズは乙女モード全開で――カイエの腕に絡みつきながら応える。
「ローズ、その部屋は私も一緒だから……あとは、本格的なキッチンと食材の保存設備だな」
反対側に寄り添いながら――エストは彼女らしい意見を言った。
「部屋はみんな一緒だよね? 私は鍛錬できる広い場所が欲しいなあ」
カイエの背中に覆い被さるようにして――エマが顔を出す。
「まあ、その辺は勿論用意するけどさ……これまでには無かったモノって言うか、もっと代り映えのするアイデアはないのかよ?」
勿論、新しく作るのだから多少アレンジはするつもりだが――正直言って、それだけでは物足りなかった。
そんなとき――
「プールとバーラウンジ……あとはカジノルームも外せないわね」
アリスが挑発するような笑みを浮かべる。
「カイエなら、これくらい簡単に作れるわよね?」
「フッ……当然だな。アリスが驚くような豪華なやつを作ってやるよ!」
そういう我儘な意見を待っていたんだよと、カイエも悪ノリして応える。
「だったら……その、もし可能ならで構わないんだが……果樹園や菜園はどうだろうか? 果物や野菜は、新鮮なモノを使いたいんだ」
「エストはそっちか……解った。用意するよ」
カイエはアッサリと承諾したというか―すっかり作る気満々という感じだった。
「それなら私は……薔薇の生け垣が欲しいわ! カイエと一緒にお散歩したいの!」
「はいはい、薔薇の生け垣ね……」
ローズの提案も、テーブルに置いた紙に書き込んでいく。
プールに果樹園と菜園、薔薇の生け垣――全部作ったら、相当大きな船になりそうだ。
「それだけ大きな船を作るなら……あともう一つ。これは設備とか、そういう話じゃないけど……せっかくだから、物資を運んで交易しない?」
アリスの言葉に――他の四人の反応はイマイチ薄かった。
「あんたたちねえ……何度も言うけど、何にお金が必要になるか解らないし、お金はいくらあっても困らないでしょ? それに商売をすることで得られる情報ってのもあるんだから、スペースがあるなら有効活用しないと勿体ないわよ」
アリスにも
カイエの
「まあ、スペースには余裕があるし……アリスの商売に付き合うってのも面白そうだな」
カイエはニヤリと笑うと――
「物資を運ぶなら、格納庫も温度や湿度を調節できた方が良いよな? 鉱物や石材以外を運ぶなら、その方が品質を維持できるからさ」
「ええ、勿論。それに越したことはないわよ……」
アリスは応えながら――低温・低湿で運搬できるメリットが生きる商材について、早くも思考を巡らせていた。
※ ※ ※ ※
カイエは趣味に走る一方で――四人の
そうは言っても――すでにラスボスクラスの
さらに一週間も経つと――
しかし、
「なるほど……目から鱗とは、
黒鉄の塔にカイエが保管していた記録媒体――エストはその閲覧方法を習得してから、高等魔術に関する記述を読み漁っていた。
そこに書かれていたモノは、エストの魔法に関する常識を根底から覆すような内容であり……カイエに解説と実践をして貰いながら、彼女はその習得に勤めてきた。
そして、『魔力の効率的な使い方』を覚えたエストの魔法は――全てが強化されて、対
そんなエストの成長に引っ張られるように……ローズ、アリス、エマの三人の実力も伸びていき――
カイエが船を完成させる頃には、
「カイエ……はい、あーん!」
「あ、ローズ! 一人だけズルいぞ!」
「待って、二人とも! 私もやる!」
ローズたちは相変わらずであり――
「おまえたち……無駄に強くなったな……」
などと、アルジャルスに呆れられる始末だった。
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