何でも解決するマンの小話置き場
南雲 皋
年越し
年越し。
一年の終わりと一年の始まり。
僕らが一緒にいるかといえば、そんなことはない。
だって僕らはまだ高校生で。
空園女史は箱入り娘だ。
僕らは冬休みに入ってから数回会っただけの、健全なお付き合いを続けている。
僕の両親は、毎年年越しを待たずして就寝する。
年越しだろうと、普段と何ら変わることのない生活を送る両親に違和感を覚えたこともある。
けれど結局の所、僕は両親に何も言えなかった。
そうして僕は今年も静まり返った家の中、ベッドに横たわっている。
年越しに向かって秒針のカチカチと連続するリズムをただ、聞いていた。
僕はまだ眠れないのに、僕以外の全ては眠っている。
そんな感覚。
あと何分で日付が変わるのだろう。
時間を確認しようと携帯電話に手を伸ばした時、タイミングよく、それは震えた。
画面には空園女史の名前が表示され、ディスプレイが暗闇に慣れた目に眩しい。
指を画面に滑らせ、携帯電話を耳に近付けた。
『もしもし?』
「どうしたの、こんな時間に」
あと五分ほどで、一年が終わるらしいタイミングで、耳に届く好きな人の声。
身体を起こしてベッドの端に座り、電話の向こうに集中した。
『一緒に年越ししようと思って』
「あれ、日本にいるの?」
空園女史の声の更に奥、除夜の鐘が響いている。
てっきり空園家は家族で海外にでも行っていると思っていたのに。
『しんちゃんと同じ国に生まれたのですもの。同じ時を刻みたいわ』
「……あと、三分くらいだね」
思えば、色々とあった一年だった。
空園女史とお付き合い出来ることになったことを皮切りに、本当に色々と。
その色々はきっと、これから別の形でまとめあげられるのだろうけれど。
『しんちゃん?』
僕が一人で思い出を回想していることなど、電話越しの空園女史には分かるはずのないことで。
眠ってしまった僕を優しく起こすような空園女史の声に、僕は現実を取り戻し返事をした。
『あと少しですよ。十、九、八、七』
「……美鶴さん、僕に会いに来てくれてありがとう」
『えっ!?』
「あけましておめでとう、空園くん」
『ちょ、しんちゃん!? 貴方いま、私の名前』
「あけまして、おめでとう?」
『あ、あけましておめでとうございます』
「うん、今年も、よろしく」
電話越しに聞こえる空園家の皆々様のお祝いの声。
空園女史の声。
真っ暗だった僕の部屋は今では眩しすぎるくらいに明るくて。
だから僕はこれからも、ずっと一緒にいたいと思うんだ。
僕を追い掛けて。
僕を掬い上げて。
僕を救い出してくれた。
あなたと。
『しんちゃん! 私ごまかされませんからね!』
「好きだよ、美鶴さん」
『〜〜〜〜ッ!! わ、私の方がもっと好きです!!』
「あはは、そういうことに、しておきます」
A HAPPY NEW YEAR !
______
“何でも解決するマン“を、こんなにもたくさんの方に読んでいただけて、好きになっていただけて、本当にありがとうございます!
これからも、二人の話を紡いでいくつもりでおりますので、来年も何卒、よろしくお願いいたします。
2019,12,31
南雲 皋
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