126.ニセモノ電柱(怖さレベル:★☆☆)

(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)


住んでいる地域の、心霊スポットを言ってくれ。

そう言われて、すぐポンッて出るヤツは、そうとうな怖い話好きでしょう。


でもね、地域によっちゃ、

住んでいる人間だれしもが知る、ヤバイ場所ってのはあるもんで。


それで、そんなヤバイ場所――心霊スポット、

もしくは曰く付き、なんて言われる場所がね、

オレのうちの、すぐ外にあるんですよ。


ああ、いや、別に田舎ってわけじゃないし、

ふつうの住宅街ですよ?


小中学校の登下校のルートからは微妙に外れた、

なにも知らない人であれば、怖い場所だなんてまったく気づかないような、ね。


しかも、心霊スポットって言うと、

どっかの橋とかトンネルとか、もしくは崖やら滝やらが多いでしょう?


うちの外の場所は、なんていうか、ちょっと変わっててね。


というのも、それは『電柱』なんですよ。


ええ、電柱。

犬のおしっこの被害や、鳥がとまってフン被害の原因にもなる、アレです。


そんな、なんの変哲もない電柱が、

うちの地域、オレの家のすぐ外の心霊スポットなんですよ。


ええ、そうまで言うからには、

当然目撃情報も盛りだくさん。


『あの電柱の傍に、いつも立っている男がいる』

『電柱のとなりを通ったとき、誰もいないのにボソボソ声が聞こえた』

『近くを通ったら、足を電柱の方へ引っ張られた』


などなど。

定番とも言える内容がまぁ、山ほど。


なにせ有名なモンだから、

そりゃあ夜中といえば、肝試し連中がしょっちゅう来ましたよ。


どっかの廃屋やら廃トンネルやらに比べれば、

近いし手軽だし、ちょっとしたムード上げにはちょうど良かったんでしょう。


オレもね、楽しんでる連中に水差すのも悪いから、

外からがやがや聞こえてきたら、ちょっとこう、

風鈴の音なんて流してやったりしてね。


キャーキャー言う奴らの声に、ちょっと満足したり、なんていう、

まぁある意味趣味の悪いことをやってますよ。


ええ、そうそう。

こんなこともありましたねぇ。


たぶん、あれは小学生かなぁ。


ランドセル背負った五、六人の子どもが、

みんなで腕時計をにらみながら、

四時四十四分に電柱にさわる、なんてチャレンジしててねぇ。


あんまりにも微笑ましかったから、ちょうど時間になった時、

家の中で「へっへっへ」って笑っちまったんですよ。


どうにも、覗いてた窓が開いてたせいかねぇ、

子どもたちは『なんか変な声がした!!』って叫んで、

まぁクモの子散らすように逃げてっちゃいましたねぇ。


ああ、あと、

こんなこともありましたよ。


これはたぶん、酔っぱらった大学生か社会人の若いグループだったかなぁ。


深夜のハイテンションなのか、

電柱の前でなんかギャアギャア騒ぎ始めてねぇ。


オレはふだん、そーいうのもしょうがねぇなぁと流すんですが、

その日は風邪引いて発熱してて、虫の居所が悪かった。


イライラとダルさとで、パジャマ姿のまま、

玄関から裸足で電柱の方へ行って、

『うるせぇぞ!!』と怒鳴りつけにいってやるつもりだったんですが、


「でっ……出たーっ!!」

「ぎゃぁあああ!!」

「ゆっ……幽霊!! 幽霊だ!!」


オレの姿を見た奴らは、まさに幽霊を見たといわんばかりに、

バタバタと逃げ去っていったんですよ。


まったく失礼な話ですよねぇ。

確かに、寝起きで髪もボサボサだったし、

靴も履いてなかったし、顔色も悪かったでしょうけど。


え? 電柱で怖い現象が起きていない?

お前が心霊スポット化させてる張本人じゃないか、って?


ははは、お気づきになられましたか。


いや、ねぇ。

心霊スポット、なんて、こんな人為的なモンばっかですよ。


ほんと、いろんなキッカケや然したることのないことで、

簡単に人間はカン違いしちゃうんです。


だって、ねぇ。


本当の心霊スポットは――

オレの家の前の電柱ではなく、その隣の電柱、なんですから。


だから、オレの家の前でいっくら張ったって、

なーんも起きやしないんです、本来なら。


それを、ちょっと楽しませてかん違いさせてやってるオレ、優しいでしょう?


え? 本当の心霊スポットではなにが起きる、って?


さぁて……ソレが世間にバレないよう、

オレはちょいちょい頑張ってる、ってわけですよ。


ま、敷地内に電柱があるから、

少額ながらお金も頂いていることですし、

家の前で、そう簡単に人に消えられちゃうと困るもんでね。


心霊スポットなんて、ただのかん違いや、

ちょっとした何かでなっちまってるところがほとんど。


遊び半分で行って、

オレみたいにやさしーい住人が対応してくれりゃあいいけど、

ホンモノの『なにか』に魅入られちゃ、お終いってもんです。


ま、肝試しなんて、気軽に行くもんじゃないってことですな。


これを読んでもなお、気にせず行く、って方は……

まぁ、せいぜい用心して挑んで、情けなくでも現世に帰れることを願ってますよ。

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