104.キャンプファイヤーの人影①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


ほら、林間学校ってあるでしょう?

山の豊富な自然のなか、山のぼりや校外学習、生活訓練をするっていう、あの。


わたしの学校も例にもれず、

小学校三年生のとき、一泊二日の林間学校が開催されたんです。


朝早くに学校をバスで出発して、お昼ごろに現地に到着。

ご飯を済ませてから、かるく山を登って、男女別れてのお風呂。


夕ご飯は飯ごう炊さんで、みんなで必死になって火を起こして。


あの黒い、独特なかたちの炊飯がま……えぇと、飯ごうでしたっけ?

あれにお米を入れて、水を入れて、火の上につるして。

あとは残りのメンバーでカレーを作って、和気あいあいと食べて。


友だちは、山のなかで食べるご飯は特別おいしい、だとか、

火で炊いたお米は味がぜんぜんちがう! とか言っていたけれど、

火の勢いが強くて生焼けになったご飯は、わたしはおいしいとは思えなかったり。


でも、今思い出すと、そんなちょこっと苦い記憶も、

いい思い出だったのかもしれません。


いえ……ほんとうに苦い思い出は、この後、なんですけど。


夕ご飯が終わると、林間学校の恒例イベントといえる、

キャンプファイヤーが始まりました。


木の枠組みはすでに先生たちがすませていて、

わたしたちはCDラジカセから流されるメロディーに合わせて、

それまで体育の授業で練習してきた踊りを舞いはじめました。


すでにうす暗くなった夕方の光のなか、

ユラユラと揺らめく火が、パキッパキッと音を鳴らしながら、枝を飛ばしています。


大きなオレンジの炎を囲みながら、みんなでステップを踏んだり、

ワイワイとおしゃべりしたりして、のんびり時が流れていきました。


「そろそろ、ラストの曲だよー」


と、先生がラジカセをイジりながら声を上げると、

一部からブーブーと不満げな声が上がります。


はしゃぎたりない男子や、夜ふかしに慣れた女子たちは、

まだまだ、遊びたりないようでした。


「わかったわかった! じゃ、あと二曲ね。それでほんとうに最後だよ!」


苦笑する先生に数人の生徒がかけよって、

なごやかに話をしながら、追いかけっこを始めています。


わたしは踊りもあんまりうまくないし、

ひっこみ思案な性格なので、遊び回るみんなを見回しながら、


(あー……はやく終わらないかなぁ)


と辺りをウロウロと歩いていました。


そうして、ようやく流れはじめた最後のメロディーは、

アップテンポで外国の歌詞がついた、ゆかいな曲調のもの。


率先して踊っていた先生や生徒たちが、

曲にあわせて、パチパチと手拍子で盛り立てます。


木の枝がはじける、パキパキという高い音。

金色にかがやく、細く大きい炎のゆらめき。

生徒たちみんなの、ほんのり赤く染まった頬っぺた――。


流れるメロディーと手拍子が、暗い夜空にあかるく響きました。


「さーみんな! 踊って踊って!」


先生が、ニコニコと笑顔で盛り上げていた、そんな時。


……ガッ、ガガッ


まるで、固い石と石をこすりあわせたような、イヤな音。

それが突然、拡声されたラジカセから響いてきたのです。


「あれ……壊れたかな」


先生が、あわててボタンをカチカチと押しています。

何度かイジると、再び同じ音楽が問題なく流れはじめました。


「あー、よかった。それじゃみんな、気をとりなおしてもう一回……」


ガガッ、ガガガッ


しかし。

すぐにあの耳ざわりな音がし始めました。


燃えさかる炎の前で、ギリギリと低くきしむようなその音は、

言葉でいえない不気味さと、重苦しい不安を感じさせます。


慌てて先生が再びラジカセに向き直って、ガチャガチャと作業したものの、


「うーん、ダメだな……残念だけど、ここで終わりにするしかないね」


ゆるゆると諦めたように首をふると、ふたたび上がるブーイング。


「仕方ないでしょ、直らないんだから。今日はここ……まで……」


と。


生徒たちに言い聞かすように声をはり上げていた先生の声が、ふいに止まりました。


(……?)


彼女の視線は、わたしたち生徒のすがたを通りこして、

その向こう――夜の林へと向いています。


「あ……あ、あ」


いままでニコニコと笑っていた顔は引きつって。

半開きの口が、ガクガクと震えはじめています。


その形相を見た何人かが、悲鳴を上げたり逃げ出したりし始めて、

なごやかだった空気が、とたんに恐ろしい空気へと変わってしまいました。


「ど……どうかしたんですか?」

「なにかあったの!?」


食事の後片付けをしていた他の先生たちが、

異様なキャンプファイヤーの様子に、あわててかけてつけてきます。


「だいじょうぶですか!?」

「みんな、ほら落ち着いて!」


他の先生たちが変わった空気をどうにか沈めようとするなか、

友人の一人が、ふと林の合間へと指を向けました。


>>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る