100.学校の四階女子トイレ①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

『10代女性 園部さん(仮)』


学校の怪談の定番といえば、なにを思い出しますか?

……タイトルの時点で察されているかもしれませんが、やっぱりトイレ、ですよね。


毎日生徒たちが掃除しているとはいえ、

なんだか薄汚いし、電気を点けてもうっすら暗いし、なんとなく怖い。


新しいところだとそんなことはないのかもしれませんが、

うちの小学校は築80年の古い校舎だったので、余計不気味で……。


幼い頃は、赤いちゃんちゃんこやトイレの花子さんなど、

いかにもな作り話であっても、恐怖をあおられたものでした。


そして……これから私がお話するのは、

小学校を卒業する間際、六年の冬に体験したできごとなんです。


そう……あれは、二月の半ば、だったでしょうか。


卒業式の練習やら、中学入学の為の勉強やらで、

なんとなく、学年全体が浮足立っていた頃のことでした。


それまで私は勉強嫌いだったうえ、サッカーやらドッジボールやらが大好きで、

いつも女子の輪を外れ、男子たちとばかり遊んでいました。


だから周囲が進学にむけてなんとなくそわそわしているのに馴染めず、

一人、浮いてしまうことも多くなってきていたのです。


そんな感じですから、微妙にクラスにも居づらくなったりもして、

学校を休みがちになっていた頃でした。


その日は、本当に前日から風邪を引いていたのですが、

卒業式の練習があるということで休めず、

軽く咳き込みつつ、放課後ランドセルに教科書を詰めていた時です。


「ねぇねぇ、園部さん!」


クラスの女子の一人、矢間田さんに声をかけられたのは。


「……ん? どうか、した?」


珍しい相手に、困惑しつつ問い返しました。


矢間田さんはクラスの女子の中心人物。


いかにも女の子然としたキャラクターで、

スカートとワンピース以外の服装をしているのを見たことがないほど。


常にパンツスタイルで校庭を駆けずり回っていた自分とは、

まさに正反対の人物なのです。


そんなですから、なんとなく苦手意識もあったりして、

クラス内でもろくに会話をしたこともありませんでした。


「園部さん、これから放課後、空いてる?」


彼女は身を乗り出すようにしてつめ寄ってきます。


「えっ……空いてる、けど」

「良かったぁ! わたしたち、もうすぐ卒業でしょう?

 その前に校舎をぐるって回ってみようと思って……よかったら、一緒にどうかなぁって」


と、猫なで声で首を傾げました。


(校舎を回る、か……)


以前までだったら、放課後は男子たちと公園で駆けずり回っていたので、

そんな提案、歯牙にもかけなかったでしょう。


しかし、今は遊び相手もおらず、その上ふだんロクに話もしない相手ですし、

卒業前の一回くらい構わないかな、と思ってしまったのです。


今思えば……なぜ自分を誘ったのかを、もっと考えるべきだったのですが。


「うーん、いいよ」

「ホント!? よかったあ。じゃ、さっそく行こう!」


彼女はスミレのように可愛らしく笑って、

私を教室の外へと導きました。


すると、そこにはすでに三人ほど、

見知った女子のクラスメイトが立っていました。


「園部さんも、いっしょに来てくれるって!」

「えーほんとぉ?」「よかったねぇ」「うんうん、楽しみ!」


と、ケラケラと声を上げながらこちらを振り返りました。


「さぁ園部さん、行こっか!」

「う……うん……」


この女子のノリについていけるだろうか。


自分と真逆のメンバーたちに挟まれながら、

不安な思いを抱きつつ、彼女たちに従ったのです。


そして……結論から言えば、

それに関しては、まったく心配ありませんでした。


彼女たちの真の目的は、

私と親睦を深めること――では、なかったからです。




「ちょっと! ねぇ、開けて!!」


ドンドンドン!


女子トイレの入口のドアを叩きながら、私は掠れた声を上げました。


一枚壁をはさんだ向こう側からは、くぐもった笑い声がいじわるく聞こえてきます。


「ねぇ! ここから出して!!」


個室とちがい、カギなどないドアですが、こちらは女子一人。

あちらは四人となれば、とても力でたちうちできません。


「ちょっと! 聞いてるの!?」


ガンガンガン!!


頭にきた私がけりを入れ始めると、

向こうはさらにおおげさに笑い声をたてるばかり。


まるきりこちらを見下しているような、悪意に満ちた声。


私が歯ぎしりして悔しがっていると、彼女たちはあろうことか、


「園部さん、ドコいっちゃったのかなぁ~」

「さあね。もしかして、神隠しにでもあっちゃったんじゃない?」

「アハハ、花子さんにつれてかれちゃったのかもね~」


なんてワザとらしく言って、どんどん声が遠く離れていく始末です。


「……クソッ!!」


声がしなくなったタイミングを見計らってノブを回しても、ドアはびくともしません。

なにかで固定したのか、重しでも置いたのでしょうか。完全に計画的な犯行です。


「あー……」


私は思わず、ひざを抱えてしゃがみこんでしまいました。


なぜトイレに閉じ込められることになったかというと、

始まりは、こうです。


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