65.材木置き場の異変①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


うちの実家って、土木業をやってましてね。

オレはその跡をつがず、違う仕事で実家をすでに出ているんです。


で、お盆休みに実家へ帰ると、なにやら最近、

困ったことがあるというんです。


詳しく話を聞いてみると、うちは土木業なので、

事務所と少し離れたところに、材木置き場がありまして。


まぁ、実質廃材置き場みたいな状態になっているんですが、

どうやら、そこがナゼか心霊スポットとして認知されてしまい、

やたら若者たちがやってきては、場を荒らしていくのだというのです。


ならば警報設備でもつければ良いと進言しても、

妙に気乗りしない返答が返ってくるのです。


ならば口も出すまいと放置し、実家でくつろいでいた二日目。

さっそく、何者かに荒らされたというんですよ。


半ば呆れつつ父と共に現場に向かうと、

たしかにソコはひどい有様でした。


児童公園ほどの広さの敷地に積み上げられた材木と、

古びたプレハブ古屋が奥にあるのですが、

肝試し連中の仕業なのか、足元にはタバコの吸い殻が無数に放置され、

スプレー缶のラクガキのようなモノまでプレハブの壁にされている始末です。


「これ、ヒドすぎんだろ……警察に届けた方がいいんじゃねぇの」

「まあなぁ……一応、駐在さんには話をしてて、見回りしてもらってんだが……」


実際、補導された者もいるらしいのですが、

全体的に訪れる人数はさほど変わりないらしく、

最近はもはや諦めているのだというのです。


そんなことを言われると、元来負けん気の強かった俺は、

いっちょ肝試しにやってきた奴らを懲らしめてやろうと思い立ち、

懐中電灯と木刀を持って深夜にそこに向かうことにしたんです。




深夜の一時。


すっかり家族が寝静まった頃合い。

俺はそっと家を抜け出しました。


どうせ両親に言ったところで、危ないからやめろ、

と止められるのが目に見えています。


一度、そこはマジで危険、という話になれば、

遊び半分で訪れる者も減るはず。


そう考え、俺は自転車にまたがって、

暗い夜道を材木置き場へと急ぎました。


キュルキュルキュル……


古びた自転車は、リールを巻く音がやけに大きく耳につきます。


まだ暑さの残るお盆の夜。


田舎の一時では、明かりのついている民家もなく、

自転車のともすライトのみが約5メートル先の闇を照らしていました。


(……薄気味悪ィな)


ほとんど勢いのまま出てきてしまったものの、

よくよく考えればこんな真っ暗なさなか、

来るかどうかもわからない肝試し客を迎え撃とうなんて、

無謀も良いところなのではないか?


それに、うちの材木置き場がいったいどうして肝試しスポットになってしまったのか、

そのキッカケについても両親はいっさい語ろうとしないのです。


もしかして、本当に何か出――。


「……な」


と、そこまで膨らんだ想像は、目前に見えてきた

材木置き場の様子に、あっという間に消し飛びました。


キャアキャア

ガヤガヤ


五、六人の集団が懐中電灯か何かの明かりを持ち、

そこでワイワイと楽しそうになにかをやっているのです。


「さっそく出やがったな……!」


俺は一瞬で頭に血が昇り、自転車をそのあたりの田んぼのあぜ道につけると、

持参した木刀片手にその場に乗り込んでいきました。


「こおらぁ! ここは私有地だ! いったい何してるッ!!」


煮えくり返るはらわたそのままに、ドスの効いた声で喚けば、


「ウワッ、やべぇっ」

「逃げよっ!」


中高生くらいの子どもたちは、クモのこを散らすように俺から逃げ出しました。


「こらっ、待てっ!!」


散り散りに逃亡した子どもたちを追っていこうと、

置き場から飛び出そうとすれば、


「んっ!?」


グイッ、と服の裾を引っ張られてたたらを踏みました。


「おっ、おじさん! ここの人ですか!?」


そこに縋り付いていたのは、先ほど逃げたメンバーの一人と思われる男子学生です。


「ああ、そうだ。なんだ、逃げてない奴がいたのか」


おそらくビビって動けなかったんだろうと、俺がその子に説教でもしてやろうと向き直ると、


「良かった……!!」


突然、ボロボロと涙を流し始めたのです。


「ちょっ、おい……」


俺が勢いを失って戸惑っていると、グズグズと鼻をすすりつつ、

嗚咽混じりに少年が事情を語り始めました。


「うっ……ゆ、幽霊が出てっ……だ、誰も信じでぐれなくっで……っ」

「ゆ、ユーレイ……?」

「う"んっ……」


まさか、と尋ねるも少年はブンブンと首を縦にゆすります。


「いやいや。俺が来た時には、そんなんどこにも」

「ま……混ざってた」


幽霊なんて、と否定しようと声をかけるも、

少年はボソボソ声で呻きました。


「僕たち、三人で来てたのに……あいつら、

 まるで友だちみたく混ざって……最初から、当たり前みたいに……」

「……三人?」


すぐ直前の記憶を頭に思い浮かべます。


確か、うちの材木置き場を自転車から見た時には、

五、六人ほどの人影がいました。


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