50.田んぼに転がる人形群①(怖さレベル:★★☆)

(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

『30代男性 山崎さん(仮名)』


道路を車で走行していると、

道端とかに見慣れぬオブジェの存在に気付くことってありますよね。


特に田舎道ではありがちなんですが、

何の為にあるのか不明な銅像や看板、

不法投棄されたのか無造作に転がっている人形らしきものとか。


あの日も、そんな道端に転がっていた人形から始まったんです。


それは、仕事の同僚の宮田という友人と、

男二人で寂しく温泉旅行に出かけた帰りのことでした。


「いやー、いい道だねぇ」


助手席でだらけている宮田が、車通りの少ない道路を眺めて、

満足そうに伸びをしました。


片道一車線のその舗装路は、両脇に田園の広がるおだやかな一本道。


この時期ではまだ水もはっていない様子ですが、

道端にはまるで道しるべのようにレモンイエローの水仙が立ち並んでいて、

春のうららかな陽気とともに、ほんのりと暖かく気分も高揚します。


「山崎と二人で温泉なんて……って思ったけど、気兼ねなくっていいなぁ」

「お前な、彼女ができたら覚えとけよ」


同僚とは言え、すでに十年来の付き合い。

なんの遠慮もない男旅は、ムサ苦しくはあるものの気楽なものです。


カーステレオから流れる爽やかなBGMと共に、

のんびりした気候を味わいつつ車を走らせていると、


「ん……ありゃなんだ?」


ふと宮田が伸びていた身体を起こし、外に視線を向けました。


「なにか見つけたか?」

「何だろなー……二っつ、ポンポンって転がってんだけど……」

「転がってる……?」


奴のマジマジと見つめる方向が気になり、

速度を緩めてヤツの視線の先をたどります。


確かに、田んぼをひとつ隔てた向こう側、

無造作に転がされている細長いなにかの物体が見えました。


「カカシかなんかじゃねーの」

「あー……たしかに、なんかフォルムが人型っぽいわ」


幸い後続車もないので、ノロノロと徐行運転を続けつつ、

その転がっている物体の横をするりと通り過ぎました。


「ぅおっ」


すると突然、宮田がガタっと身体を揺らしたのです。


「おいおい、なんだよ」

「いや……風か? あの人形モドキ……動いたっぽかったから」

「あー、人形じゃなくって人が日向ぼっこでもしてたんじゃねぇ?」

「いや……人工物だった、あれは」


宮田は俺より視力も良いので、はっきりとそれを目にしたようでした。


「いつかお前が言ってたお面じゃねぇけど……追っかけてこられたら怖ぇよな」

「おっ、おいおい……」


かつて秋祭りこの宮田と出かけた時にあった出来事を、

どうやらこいつも覚えていたようです。

(⇒https://kakuyomu.jp/works/1177354054893362626/episodes/1177354054894312882


「まぁ、こんな真っ昼間じゃあお化けもなにもないだろうけどな」

「まーな。第一、そこらに転がってるモン見ただけで祟られるなんてこと、

 そうそうあるもんじゃねぇだろ」

「えー? ほら、波長が合ったらヤバイとか言わねぇ?」

「波長……? お前、また妙なコト言うな……」


この同僚が、まさかオカルト方面に興味があるとは知らなかったので、

思わず訝し気な声がもれました。


「いやぁ、こないだ一人ホラー映画祭りしちゃってさぁ。

 おかげで廃屋やら井戸やら、今めっちゃ怖い」

「……人生楽しんでるよなぁ、お前」


そういえば、宮田は学生時代にレンタルビデオ店でバイトしていただとかで、

今でもしょっちゅうドラマやら映画やらを借りていると聞いていました。


「つーか、そういう話してると寄ってくるとか言うだろ」

「ヤベーよな。じゃ、こないだ見たインド映画の話でもするか」

「……インド?」


冗談だか本気だかわからないヤツの映画うんちくを聞かされながら、

ポツポツと民家の並ぶ田舎道をひたすらに走っていると、


「……う、え?」


映画情報を垂れ流していた宮田が、素っとん狂な声を上げました。


「なんだよ」

「は……はは。さっきの……マジだったかな……」

「は? さっきのって」


半笑いの宮田の声は、不安げに揺れています。

常にない様子の彼に、俺はギョッとして再び速度を緩めました。


一体なんだ、と横目でその宮田の視線の先をたどれば、


「……なんだ、ありゃ」


唖然として、俺は口を開きました。


水のはっていない、雑草ばかりが生い茂る田んぼ。

そこにワラワラ、というのが相応しいほど大量に打ち捨てられている物体。


それは、さきほど一瞬目にした人型に似ているように思えました。


「うわっキモッ……なんなんだ、あれ」


転がっている人形は、よくよく見れば確かに人間とは間違えようのない、

コケシを巨大化させたような寸胴の形をしています。


そんな量産品なのかと思うほどに類似した人形たちが、

どういう意図かは不明ですが、ゴロゴロと大量に積み重なっていました。


「不法投棄か、カカシ代わりかは分かんねぇけど、

 こうもたくさんあると……不気味だな……」

「それもそうだし……なんかアレ、やっぱ動いてねぇ……?」


宮田が、身体をビクつかせながらこちらに問うてきました。


「はぁ? 動いて……?」


さすがに運転しながらではよくわかりません。

相変わらず他に車も無かったため、田んぼの路肩に一時停止します。


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