第一話 豊穣の王国

 燃えさかる夜の港町に、沖合で列をなす軍艦から続々と砲弾が撃ち込まれてゆく。その火力支援を受けて進む輸送船の甲板に立つ巨大な人型構造物ストラクチャーの胴体で、開いた装甲の裏に足を掛けて操縦室から身を乗り出した仮面の騎士が声を張り上げている。

「諸君、これまでの戦いご苦労だった!今より攻め込む港は、我らが帝国との同盟を拒み皇帝陛下に抗う最後の一国、ウェルスランドの港である!この一戦が、世界に帝国の威光を示す戦いの総仕上げとなる!諸君らの手によってそれを成すのだ!帝国に栄光あれ!」

 帝国に栄光あれ!立ち並ぶ巨人が握り拳を胸まで上げ、騎士達が一斉に唱和した。剣を抜いてもよい状況なら胸に捧げ持っただろうが、激しく揺れる船上である。

「一人も欠けることなく、故郷に凱旋しよう!」

 小さな教会の鐘楼ほどもある魔鉱兵、ナイトの胸部装甲が騎士達を包み込み、仮面の騎士が乗る銀のアークナイトの合図で魔鉱兵部隊が輸送船から浅瀬の海中へとしぶきを上げて飛び降りてゆく。


 昼間であれば、水中に半身を浸して動きの鈍った魔鉱兵などは格好の標的にされるところだが、港を守る砲台も敵の艦載砲の発射炎ぐらいしか目印のない夜襲とあってはいささか不利だ。それでも王都からの援軍が到着するまでは撃ち続けるしかないのが港町の守備隊だった。

「撃てー!敵に上陸の隙を与えるな!何としても死守するんだ!……うわぁ!?」

 闇夜に紛れ、泡立つ波を掻き分けて上陸した巨大な影が堡塁ごと砲台を蹴散らす。


 アークナイトは剣のひと薙ぎで両隣の砲台も破壊すると、後に控える魔鉱兵部隊をハンドサインで左右に振り分けた。

「後続機、一班は船着場を押さえろ!二班は引き続き砲台と見張り台を潰せ!すみやかに本隊の突破口を開くのだ!」

 家々を焼く炎に照らされた銀の胸部装甲が展開し、銀の甲冑を纏った仮面の男が操縦席から立ち上がりながら装甲の縁に足を掛ける。そのすぐ横を海からの至近弾がかすめ、先行して港の占領に向かうナイトの一体がよろめいた。

《白騎士殿!火力支援が厚すぎます!》

「戦争屋は、馬鹿のひとつ覚えで……!砲撃をやめさせろ!信号弾上げ!」

 自動装填のアルバレストを背負った魔鉱兵アーチャーが時限式で炸裂するボルトを垂直に放ち、上空で発光信号が瞬いたのを合図に艦隊の砲撃が止んだ。程なくして小舟に乗った生身の兵士が続々と上陸し、崩れた護岸に立つアークナイトの脇を隊列を組んで通り抜けていく。兵隊の行く手ではウェルスランド王国の軍艦が停泊したまま無残な姿を晒し、その手前に並ばされた生き残りの船員や港の作業員が両腕を頭の後ろで組まされている。これから、あの捕虜どものうち抵抗する者は見せしめに殺し、帝国軍の荷下ろしに使えそうな者は使わなければならない。

「少し壊しすぎたな。最大の軍港と聞いていたが、他愛もない」

 帝国の尖兵として最前線を駆け回っているうちはいいが、戦が掃討戦に移り、やがて終われば出世のチャンスは限られる。この国には踏み台になってもらうぞ……。そう呟く仮面の騎士ノイシュの口元は笑ってはいなかった。

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