2ー94★目の前にあるものは…
フィリアの叫び声を聞いてフェンは一直線に山小屋を目指して走った。
そして、その僅かな時間の間に彼は実に様々なことを考える。
もちろん、彼女の悲鳴を聞いて駆けつけるのだから最初に考えるのは彼女の心配だ。
(悲鳴がしたと言うことは、何かがあったのは間違いがないだろう。
結界があるからモンスター関連ではない。
一番可能性的に高いのは侵入者だろう。
確かノルド様がフィリア様は狙われていると言っていた。)
その他にも先ほどまでナカノと睨みあいをしていた彼は、彼女の叫びを聞くまでは先ず間違いなくナカノが敵に操られていたのではないかと言うこと。
(もしも侵入者だとしたら…アタルさんを警戒してたんだけどな…
見事なくらいに外すことになってしまう。
後で謝れば許してくれるのかな?)
あのモンスターたちの目的はなんなのか。
(でも、あのモンスターって…)
ノルドたち三人は一体どうなっているのか。
(ノルド様がいるから大丈夫だとは思うんだけど…
夕方くらいには戻ると言っていた三人。
近くにはいると思うんだけどな…
なんとか合流したいな…)
など様々なことを彼は考えていた。
そして、あっという間に小屋の前までたどり着いた彼は、先ず最初にやることはフィリアの無事を確認することだと考える。
ドアは閉まっている。
と言うことは、誰かが侵入したとかではないのか?
そこで彼は先ずは彼女の安全を確認するために、ドアの外側から声をかけようとするが…
(あれ…確か反対側にも窓があったはず。もしかしたらそこから誰かが侵入と言う可能性もあるな…)
そこで先ずは彼は中に侵入者がいるかどうかを確かめることにした。
『よし!それではいきます。』
彼はそう言うと静かに目をつむり精神を集中させる。
そして直後、自らのスキル
射程距離は自分の能力範囲が及ぶ限界ギリギリまで。
みるみる内に彼の周りを不思議な空間が広がっていく。
この能力はある程度の熟練度の商人であれば、持っているスキルである。
全く珍しくないスキル。
用途は、商談や契約などと言った誰かにあまり知られたくない内容の話し合いをするための部屋を作る能力である。
通常の使い方は、それだけなのだが…
実はこの能力には隠れた使い方が存在する。
誰かと自分、二人きりになりたいからと言うことで、この能力を発動させるとは言っても、かならず二人きりになれるわけではない。
例えば、自分が気づかない場所にいたり、はたまた絶対に二人きりになれないような状態にいることも場合によっては考えられる。
そんな場合、強制的に相手を気づかれないように排除するなんてことはもちろんできない。
お互いが手を繋いでいる可能性だってあるからだ。
ただ、できなくてもスキルを使うことで今自分がどういった環境にいるのかを探ることができるのだ。
スキル範囲をめい一杯広げたフェンは苦しそうな顔を浮かべながら、小屋の壁に手を当てて中の状態を探る。
『んー…中には恐らく一人?んー…この感じだと多分、フィリア様は無事ですね』
中の様子をおおよそではあるが、確認できたフェン。
自身のスキルで彼女を確認できたと言うことは、殺されたや連れ去られたと言うことではないと言うことで、彼は一安心ととりあえず息をついた。
『精神消費は最低限に抑えたいので、先ずはスキルを解除しましょう』
フィリアの生存も確認できて、第三者らしき影もない。
なので、恐らくフィリアが悲鳴をあげた原因は、小屋の中で起きたトラブルの可能性が高い。
そう思ったフェンは、とりあえずスキルを解除して後は状況を詳しく確認するために、小屋の中に入ることを選択する。
コンコン…
二度ほど扉をノックし、耳を扉の方に寄せる。
中でフィリアが反応した形跡が聞き取れない。
もしかすると周囲のモンスターの声が邪魔しているから聞こえないのかもしれないが…
その他の可能性も考えられる。
彼は若干の不安を抱きつつ先ずは扉を開いた。
辺りは一面真っ暗。
(あー…、そう言えば明かり消して出ていったんでしたか…)
自分が先ほどナカノを連れて出ていった時に明かりを消して出ていったことを思い出す。
躊躇なく一歩二歩と部屋の中に踏み込み彼は明かりを大きく左右に振る。
部屋の中が彼の持つ明かりで照らされ、その景色が自身の記憶と相違がないものだと確認した。
(うん。入り口は別に異常無いようです。取りあえず奥の方も見たいので、先ずは明かりをつけましょうかね…)
フェンはそう思い振り返った時に異変に気づく。
『あれ…ここ変じゃないか…?』
自分の記憶によれば、この小屋は入り口のところに明かりがあったはず。
そう思い振り返ってみたのだが、あるはずの明かりが見当たらない。
と言うよりも、先ほど自分は入り口から入ってきた。
そして、その後で数歩しか進んでいない。
なので振り替えれば、そこに明かりのスイッチと一緒にドアが見えるはずなのだが…
見えるはずのドアがない。
そして無いのはドアだけではなく、地面やその他の風景といったもの全てが見えなくなっていた。
単に暗闇だけが広がっている。
自分の見える空間が暗闇のみだと認識したと同時に、彼は再び部屋の奥の方に目をやるのだが…
そこには部屋など無かった。
あるのは後ろと同じ暗闇だけしか広がっていないのである。
そして彼は気づいてしまった。
先ほどの悲鳴と言うのが罠であったことに…
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