2ー93★記憶の中にあるもの…
『あれっ…?どうしたのでしょう…周囲が…』
フィリアはナカノとフェンに気づかれないうちに外の様子を確認しようと思い反対の窓へばれずに移動するために四つん這いの体勢になるのだが、この時に自分の様子に異変を感じた。
今の彼女は聖杯の影響により、宿り子の状態となっている。
そして、その事に対する自覚症状と言うのは、ここに来る前の段階で彼女自身が何度も感じている。
更に言うと彼女は王宮を飛び出すようになってから夜行動することも増えたのだが…
その事は元が人間であった彼女だけに間違いはないはずなのだが…
今、彼女はあきらかに自分自身に対して違和感を感じていた。
『あれ?気のせいなのでしょうか?』
暗いところにいて周囲が見渡せない。
恐らく、普通の人なら「そんなのは当たり前だろう?今さら何を言ってるのだ?」などと簡単に納得は出来るのだろうが宿り子の彼女の場合、その理由が当てはまらない。
彼女は聖杯の影響で宿り子になった当初、肉体的や精神的な変化と言うのを非常に多く経験している。
その際に彼女は自分の暗がりでの行動と言うのも以前、経験していた。
夜の暗いところで行動する際や王宮の書庫、周囲に明かりがほとんどない状態であっても彼女は昼間と同様に行動ができていたのだが…
今の彼女は暗がりの中、周囲の状況を掴めずにいた。
最初は見つからないようにと思ってとった四つん這い。
これがいつのまにやら、「よく見えなくて怪我をすると困るから」に考え方が変わってしまったのに自分で気づいてしまったのだ。
『これではまるで(宿り子になる)以前と一緒な気が…』
不思議に思い思わず漏れた本音の言葉。
元人間である彼女だけに、今の自分の目の様子が宿り子になってから経験したものとは別で、どちらかと言うと人間の時のものであるような違和感を感じていた。
そして直ぐに彼女なりに思い立った結論と言うのが
『あれ?ワタクシ、もしかして…』
彼女はそう言いながら無造作に自分の左手で右手にある
そしてそれが今どうなっているのか、確認しようと思い自分の顔を近づけてみるのだが…
やっぱりと言うか、当然と言うのべきなのか暗くて詳細が分からない。
ノルドは自分にこれを着けろと言ってきたのは、宿り子を治療するためなのだから、もしかしたらその効果が現れたのか?
確かノルドは長期的に見なければいけないと入っていた気がする…
でも…
『もしかして…』
彼女は完治とは言わないまでも、自分が元の人間に少しでも近づくことができたのか?
と感じ始める。
暗がりの中で僅かながらでも感じることができた手応え。
本当にそうなのかどうかなんて正直分からない。
ただ、気分が盛り下がるよりは盛り上がる方がいいはず。
ましてやここは暗闇。
彼女は、そんな感じで再び四つん這いになり反対側の窓を目指す。
ここは明かりがない部屋だけに地図を広げて場所を確認しながらというわけにはいかない。
頼れるのは自分の手先の感覚。
そう思い彼女は進み続けていると、左手が何かに当たった。
ゆっくりの動作だっただけに別段、痛みなどもない。
そして、今いる部屋には自分が知ってる限り刃物など危険なものはないはず。
そう思い確認していると…
『これは…多分…本…?』
明かりがついていたときの記憶を彼女は思い出してみると…
『確か…フェン様が読んでいた気が…』
先程、フェンが読んでいた本、これが地面に落ちていたのでは…
と彼女は推察をつけた。
明かりがついていた時、彼が大事そうに読んでいた本。
そんな本が何故床に無造作に転がっているのか?
等という疑問は考えずに、彼女はフェンが本を読んでいた場所を詳しく思い出そうとしていた。
『フェン様は椅子を窓際まで持ってきて、そこで本を読んでいたはずです…』
……
『…窓際?』
彼女はそう思いパッと斜め上辺りを見上げると確かに彼女の記憶通りにそこには窓がある。
『よし、ここまで来ましたので、後は…』
そう思い自身の体を起こし窓越しに外の様子を確かめたところ、近くに何やらランプのようなものを彼女は発見した。
昼間はあんなものなかったように思う。
今、この山小屋には自分を含めて三人しかいないはず。
そして自分が明かりに覚えがない今、二人の内のどちらかが置いたのであろうとは思うのだが…
『さて…理由と言うのが…』
そう言いながら彼女は首を傾け、昼間の事を思い出す。
昼間、ナカノが一旦別行動となった後、フェンは自分に何度も何度も同じことを言っていた。
「できるだけ小屋にいるのが安全ですから」そう何度も何度も同じことをいう彼の言葉に、彼女は王宮にいた頃、自分の身の回りの世話をいつでも甲斐甲斐しくやいてくれていた侍女の姿をふと重ねてしまう。
『もう…どこにでも似たような方というのはいるものなのですね…』
懐かしい気持ちになりながら侍女の事を思い出したフィリア。
彼女は、そんな侍女とフェンが同じようなことを言っていたとはいえ、実際には似ているところなど無いのではないか?
そんなどうでもいいような自問自答をしながら、彼女は振り向いた先…
暗がりの中に僅かな明かりが出現し、その先には目をつぶった顔だけが突如現れた。
自らの視線の先で起きた全く予想もしていなかった光景。
あまりにもとっぴな出来事だけに彼女は戸惑うあまり何もできなくなってしまう。
体はない顔だけ。
何でこんな不気味なものが…?
彼女がそう思った瞬間。
『こんばんは、フィリア王女!お久しぶりでございます!』
顔はいきなり目を開け明るく元気な清々しい声で彼女に言ってきた。
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